第6話

 冷たい風が頬に突き刺さる並木道。季節が移り変わるのは本当に早いもので、周りの景色はもうすっかり秋めいてきている。そればかりか冬の顔も多少覗かせつつあった。ついこの間までは蝉達がやかましくここを支配していたと言うのに。


「最近、ほら。更新がなかったから、どうしたのかなって思って」

「えっ……あ……」


 僕が本題を切り出すと何か言い出しかけるものの、すぐに言葉を引っ込める。その定まらない視線や振る舞いが、普段とは違って彼女を落ち着かないように強く印象づけた。


「言えない理由があるならそこまで深く聞かないから、大丈夫だよ」


 沈黙が続いたままこの並木道を抜けると、もうすぐ彼女と別れる通りに出る。

 ――一歩、二歩、三歩。

 枯葉が僕達の周りを静かに舞い踊る。

 するとうつむいていた彼女は、突然立ち止まると不自然な咳払いを一つし、「変な話になるけど聞いて」とここでようやく目が合うと続けた。


「……見ていて欲しい人が見てくれなくなったから。沢山の人よりもその人に見て欲しいだけなのに。でもそれが叶わないなら、私の中で書く意味なんてもう存在していないんじゃないかなって」


 その言葉だけが家に帰ってからも僕の心には残り続け、ぐるぐると繰り返される。

 それほどに彼女は伝えたい思いを持ってやっていた。それはひそやかな情熱のようなものに僕には感じられた。

 ――果たして自分にはそういうものがあっただろうか?


***


「よし、やるか!」


 いつからか忘れていた。周りの評価なんかは二の次だ。自分の大事にしたい世界を描くだけ。初めはそれだけで楽しかったはずなんだ。

 あの人に届けたい。見て欲しい。今はそれでいい。僕は本当に単純な奴なのかもしれないけど、今はそれだけで進んで行っていいんだ。

 そして僕は話の続きを描こうと、『新規作成』を押した。


 ――あなたにminamiさんから新しいメッセージが届いています

 『私はいつも榊君が頑張っていること知ってるよ。だから続き、待ってるね』

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