出産レポ

@omari

自分がない?自分しかないんですけど!

 南の島で働くようになってから、「あんたどこの島ね?」と、出身地を聞かれることが多々あった。私のオリジナル島訛りはどこの島(出身地)なのか、おばあ達にも伝わらなかったようだ。

 長年関東に住み、標準語を聞いて育ち、至極当然私も標準語を話す。だが島に来てからというものの、聞き取れもしない方言と、独特の訛りとをずっと耳にしていると、標準語を話すことが段々と恥ずかしくなってくる。アメリカに行けば、必死で英語で伝えようとする心理とも似ていると思う。見知らぬ土地に溶け込もうとするには、その土地の文化を知り、言葉を話し、規律に従う。まさしく郷に入れば郷に従え、なのである。

 郷に従った私は働き出して早々、口調が訛るようになった。しかしいくらなんでも1-2ヶ月過ごした程度で、その地の方言や訛りを網羅することはできない。私は標準語を話すよりはマシだと思い、オリジナル島訛りを堂々と使っていた。


 「(ああ、この人時間かかりそうだな。今日は夜通しだ〜。)旦那さん一回シャワー浴びてくれば?」

 助産師を何年かやっていると、なんとなく時間がかかる、かからないという、勘ともいえる予測が立つ。勘が外れてドカンと進むこともあるが、この夫婦は絶対的に時間がかかる匂いがしていた。

 先が長くなりそうなお産の時には、立ち会いをしているご主人に一度帰宅してシャワーを浴びて来てもらったり、ご飯を食べて来てもらったりする。20時間みっちり付き合って、産まれる間近の最強に痛いらしい陣痛の時に、眠気に負けました、エネルギーが切れました、では話にならないからだ。

 それに、ご主人は陣痛10分間隔の痛みがない間、スマホでゲームをしており、助産師としては気合いを入れ直してから来て?という気持ちもあった。


 「旦那さん一回シャワー浴びてくれば?」

 「そうちゃん、ここにいてほしいの。」

 「これからまだかかりそうだし、一回ご飯食べてエネルギー補給してからじゃないと、これから強くなる陣痛にご主人の身体も持たないよ?」

 「え〜でも。」

 「じゃあ一回相談してね。」


 「やっぱり僕、残ります。妻に付き添います。」

 「わかりました、そうなったからには一緒に頑張りましょうね。」


 ご主人は結局そのまま付き添うことになり、ゲームをしながら陣痛に耐える妻のサポートをし続けた。就寝時刻を過ぎ、他の患者のケアが落ち着いたので、私もご主人と一緒に患者に付き添った。

 私は個人的に夫婦の成り立ちだったり、付き合っていた頃の話を聞くのが好きなので、陣痛の合間合間に二人の物語を話してもらったりする。もちろん私はオリジナル島訛りで相槌をうち、会話をする。

 するとオリジナル島訛りが気になったのだろうゲーマーご主人は、「どこのご出身ですか?」と突然聞いてきた。

 「前年まで関東にいました。育ちも関東ですよ。色んな訛りと方言が混じってますよね私。ここにいると標準語が出てこないんですよ。」

 「(その訛りどこの地方?聞いたことないな)どこのご出身ですか?」という心の声を読み取り、わざわざ先回りして丁寧に解答したつもりだった。

 「へ〜。なんかそんなに合わせて自分がないって感じですね。」

 「(は?は?は?)そうですよね〜。」

 

 何故他人の旦那に、しかもお産中の旦那に、妻に付き添うと宣言しながらゲームをする旦那に、私は何故人格を否定されているのだろうか?むしろ私は自分らしさで溢れていると感じながら生きてきたほうだと思う。それなのに何故、今日初めて会った他人の旦那に、しかもお産中の旦那に、妻に付き添うと宣言しながらゲームをする旦那に、私は何故人格を否定されているのだろうか?

 もちろん私も社会人であるし、そのような無礼者に対抗するほど無礼ではないという自負があるので、「そうですよね〜。」の一言で話は終わらせたが、今となっては声を大にして言いたい。


 「私は自分らしさしかありません。」

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