ロスト・マインド 

ねずみのしっぽ

第1話 フリーエージェント 前編

「はぁ……困ったな。企業のエージェントとこんな場所で鉢合わせるとは。ついてないね、俺は」

普段は訪れるようのない廃墟で武装した数名の人影が視界に映った。何故こんな場所にわざわざエージェントを送り込んだのか。彼らの目的を知る方法はないが問題なのは自分の仕事がこの廃墟に現れる不審な人物の排除であったことだ。


「ま、大体の予想はつくが。分からなければ直接、本人達に聞いた方が早いな」


雲の間から月が顔を覗かせるに合わせて彼の姿がゆっくりと現れた。壁に寄りかかったシンプルな黒いスーツ姿。手元に握られた細身の刀。僅かに鞘から漏れた鈍く光る漆黒の刃に武装集団の姿が捉えられる。


「おーい、あんたら。この先は立ち入り禁止になってるんだ。できればお引き取り下さい……駄目か?」

彼の声に気づいたリーダーらしき男は電子音混じりの声で答える。


「我々にも任務がある。邪魔をするならば、4を与える。貴様のひ弱な体をこの手で引きちぎられる前に2げ出すといい、9ッ9ッ9ッ9」


「悪いがこっちも仕事でな。機械の玩具に怯えてたら他のエージェントに笑われちまうよ。それにあんたらを解体したら高く売れそうな部品が多そうだ」


「解体されるのはお前の方だ、恐怖に9るしむといい。我々の邪魔をしたことを後悔しながら4ね」


眼球の代わりに移植されたレンズが不気味な音を立てて標的を捕捉する。一つ目の集団が一斉に同じ場所に視線を向ける。彼らの改造された金属の右腕には握り潰された犠牲者の肉片が残っている。生身の人間を引きちぎることなど難しいことではなさそうだ。


「そんな一斉に見つめられたら照れるだろ?あ、でもその手と握手は勘弁な。一つ言わせてくれ、手を洗わないのは人としてどうかと思うぜ」


「手を4ごすのは慣れている。まだ足や手を洗うつもりはない」


「素晴らしい熱意で。オーバーヒートしないよに気をつけることだな!」


機械の駆動音が唸り声を上げ、周辺には死の香りが漂い始めていた。先に流れ落ちるのは血か、それともオイル塗れの濁った液体か。


機械達の夜が始まる。

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