第2話
翌日無事テストが終わり
私は少し昨日言われた「明日どこかに行こう」という夏野さんの言葉が睡眠に浸るまでその言葉が反芻して、寝るのがいつもと比べ遅くなり、午前2時にやっと睡眠に入れた。
一様断りを入れるが、昨日寝るのに時間がかかったのは決して彼女の事が原因ではない。テスト期間中ということもあり、学校から帰宅し、帰ってきて夜まで勉強していて、緊張もあって寝るのに時間がかかっただけだ。
そのこともあって今日は少し気怠い。
先生と今日一日の終わりの挨拶をし、クラスメイトがそれぞれ帰宅する者やら、グループやら、友達とやら、集まっている。
夏野さんは今日もいつも通りつぶらな瞳を私に向けてくる。
おいおい、そんな澄んだ目の眼差しを向けないでくれ。何かを期待するような目を感じて直視しずらいではないか。
「じゃあ行こっか!」
…急な言葉にびっくりした。もちろん昨日誘われた事は忘れていない。
ただ、こんな風に誰かからまるで友達みたいなノリで誘われた事なんてまずなかったから、驚いただけだ。
元々夏野さんとはあまり話さないし、どこかへ遊びに行く約束もこれが初めてだ。
私はどんな言葉で返事をすればいいのか分からなく少し躊躇して言葉を発した。
「えぇ。いいわよ。」
私はあまり普段から言葉を発しないためか掠れた声が少し出た。
特に最初の”えぇ”の部分が。
私は席から立ち上がりながら
「でも行くったってどこに行くのよ?」
夏野さんは人差し指を顎に当て首を少し傾げる。
…そのあざとく、可愛い仕草はわざとなのか、同じ女である私でも可愛いと思った。
「うーん、特に決めてないんだけど、とりあえずモールに行かない?」
私は自分で決めるのが苦手なので、こうやって決めてくれるのはありがたかった。
「そうね。そうしましょうか」
夏野さんは満足げに「それじゃあれっつごー!」と言い早く行こうよと促す夏野さんに先導されるように後を付いていった。
そうして私たちはモールに向かうために駅まで向かうことにした。
この学校すなわち桜海学校は自転車通学も可能で潮夜さんは自転車通学をしていつも学校に通っていた。
…恥ずかしながら私はというと自転車に乗れないのだ。
いや別に補助輪があれば乗れるのだ!と思い威張りそうになったが、そこまで威張れるほどの事ではないなと思い内心恥ずかしくなった。
そんな夏野さんはちょっと待っててと言い放って駐輪所まで走り去って行った。
私は校門前で鞄を両手で掴み、今から帰るのではなく誰かと放課後に遊びに行くんだと思うと緊張してきた。
だって、初めてなんだもん。
あー…出掛けるって分かっていたからもうちょっとメイクとか髪をいじったりとかした方が良かったのかなぁ…でも初めて出掛ける相手といきなりそんなことしたら、相手に引かれるかなぁ…あー…
と、どうでもいいことを明後日の方向を向きながら考えていたら、風がなびくように夏野さんが顔を下から覗かせて見ていた。
「っわ!?」
私は気づかなかった。いつの間にか夏野さんが私の傍に来ていたらしい。
「いやー、いつ気づくのかなってずっと覗いていたよ」
夏野さんは無邪気な笑顔でそう言い放った。
…ていうか顔が近い。ものすごく近い。そんな笑顔を私に向けないでくれ。本当に近い。どれぐらい近いかというと、お互いの顔に握りこぶし一つ分しか開いていないぐらい近い。もしかしたら、鼻息まで聞こえてくるんじゃないかっていうほどに近かった。
夏野さんは自転車を両手で支えながらじゃあ行こっかって言い放ち私も並んで夏野さんの隣にお邪魔する。
桜海学校から最寄り駅まで10分ぐらいで付く。
何を話せばいいのか分からなく、黙って駅までお互い歩いていたところ夏野さんが話題を振ってくれた。
「潮夜さんってモテそうだよね」
急な話で驚愕した。
戸惑いながら何とか声にする。
「え?私が?」
「他に誰がいんのよ」
くすっと夏野さんは笑っていた。
意味が分からなく、体が前へつんのめるのを何とか体を支えながらその理由を聞こうとするが言葉が出ない。
だって今…?え?
そう思っていると夏野さんが言葉を発する。
「いや、だって潮夜さんって肌綺麗だし、頭いいし、クールな感じがさ」
と言い放ちついでと言わんばかりに声も綺麗だしと言う。
続けて夏野さんは若干早口で言う。
「潮夜さんって彼氏とかいるの?」
私はそんなもの今まで考えたことがなかったので、きっぱりと否定する。
「いないよ」
夏野さんはなんでもない調子でそっかと呟く。
会話はそれだけで終わり、私と夏野さんは駅に着き電車が出発のアナウンスが聞こえてきたので急いで電車に乗り込んだ。
「ギリギリセーフ」
夏野さんは何でもない調子で言うが私は息が上がっている。
「そ、そだね」
「潮夜さん大丈夫?あそこに座ろうか」
夏野さんは私を席に案内するように先導してくれる。
息を切らしていたから正直ありがたかった。
平日の昼頃ってのもあってか人は少ない。
なんでか分からないけど、席の端っこに座る私たち。
どうしてみんな席の端っこに座るんだろうね?電車の七不思議だ。
少し距離を開け座っているが夏野さんの柔軟剤の匂いかな?ほのかに香るフローラルな香りがした。
私は気怠さもあってか少しうつらうつらになっていた。
それに気づいたのか夏野さんが気を遣ってくれて少し心配そうに顔を覗き込んでくる。
「眠いの?」
「少しね」
「駅に着いたら起こすから寝てていいよ」
「そう?じゃあ遠慮なく」
いやー女の子の気配りってすごいと思った。
一応私も女なんだけどね。でもやっぱりすごいと思った。
モールのある駅まで付くのに15分ぐらいかかるから少しは仮眠できそうだ。
そのほのかに香るフローラルな香りに包まれて目を瞑り意識が遠のく。
このままお花畑のある夢に浸るのかなぁと暢気なこと考えながら私はすやすやと眠りに落ちた。
test @ninecolor
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