test

@ninecolor

第1話

 「おーい」

 ふと夏のある日そんな言葉が聞こえてきた。

 軽く教室を掃除してすぐにクラスの先生と下校の挨拶をして、みんな各々帰るときだった。

 「今回のテストの手ごたえどうだった?」

 「手こずった個所もあったけど、全部穴埋めしたわ」

 そう。今は期末テストの真っ最中である。

 こんな7月頭初めにめんどくさい大切な学校の行事である。

 今は少し暑くて、教室のエアコンが弱ぐらいで稼働しているのが心地よいと感じる頃。私にとってはアイスは一年中365日いつ食べていても美味しいのだけど、まだみんながアイスが欲しがるような時期でもなかった。

 因みに私が好きな味は抹茶味だ。

 「いやーやっぱり聡明な潮夜さんは一味違いますなー」

 自己紹介が遅れたが私の名前は潮夜 鈴(しおや すず)。

 髪はロングで最近目が悪くなっているのを実感して、眼鏡かコンタクトにしようかと迷っている。

 そう言ってきた、少し茶髪のセミロングの顔が童顔で、背が小さくて、その引き寄せられるような澄んだ瞳からこちらを前屈みで見てくる。

 紹介が少し遅れたが彼女の名前は夏野 空音(なつの そらね)。同じ同級生の子だ。

 仲はそこまで良くもなく悪くもなく、普通だ。

 いや、まぁ私にとっては友達がいないので、仲が良いとか悪いとか分からないけれど、少なくとも私よりかは穏和な彼女にとっては私に話しかけてくる時点で仲が悪くはないだろう。

 因みに私たちは高校2年生でクラス替えの時に初めて夏野 空音の存在を知った。

 すなわちお互い初めましてだ。

 「そんな夏野さんはどうだったの?」

 「まぁ、赤点回避できればいい感じかなー」

 そんな彼女は、目は明後日の方向を向いていて、ほほほと口だけ開いて笑っていた。

 いつまでも椅子に座っていて夏野さんが前屈みで話していては腰を痛くしてしまうと思ったので私はさりげなく、筆記用具と教科書とノートをそそくさと鞄に詰め込んだ。

 帰る準備を終え忘れ物がないかと机の中をチェックをし、立ち上がった。

 夏野さんを待たせまいと慌てて立ち上がったのか、つい勢いよく、立ち上がろうとして、少し左手の小指を机にぶつけてしまった。

 コンッっと潔い音がしたのは夏野さんの耳にも入ったらしく

 「今…指…大丈夫?」

 「えぇ。大したことないわ。」

 ほんとは一瞬脊髄が取れたような感覚がして、痛かったんだけど、こんな痛みはほんの一瞬だ。最初の痛みを我慢すれば、何とかなる。…なるよね?まだ痛むんだけど。

 「ほんとにー?結構手とか足とか怪我しやすいけど、割と痛いんだよ。」

 「そこまで心配しなくても平気よ。」

 本当は痛いけど。

 「まあ、潮夜さんがそんな涼しい顔で言うのならいいんだけどね。」

 「うん。ありがと。」

 「いいってことよー!…でもまた明日もテストあるのかー…はぁ私の貴重なスクールライフが…。」

 夏野さんは心底残念そうに額を手に付け嘆息を吐いた。

 夏野さんはこの期末テストが終えればどこかに遊びに行くのだろうか?私はあまり外で遊びたいと思ったことがなく、こういうテストが終わった後でも、カラオケや、ファストフードへとみんなで行くことはなく、家に帰って、授業の事が分からなくならないように最低限のところは勉強して、あとは本や好きなゲームをしている。

 …だから友達がいないんだろうか。

 「潮夜さんはテストが終わったらどこかに行くの?」

 夏野さんは額から手を外し、ちょっと明るく聞こえるような調子で聞いてくる。

 一様明日もテストあるんだぞ…と内心思う。

 「うーん、特にないかなぁ」

 「そっか」

 と夏野さんは淡泊に流す。

 「じゃあさ、明日放課後どっか食べに行かない?」

 …え?今なんて?

 私にとっては初めての出来事だった。

 高校生になって初めてクラスメイトと放課後どこかに行く用事が出来た。

 小学生の頃はもっと無邪気で無垢で何人か友達はいたんだけどね。

 中学生の頃からいじめが原因で不登校になっちゃって、誰を信用していいのか分からず、家族でさえいなくなってしまえと思っていた。

 そんな私がこのままだといけないと思いいじめを受けていたのは、中学2年生の夏前頃だが、中学3年生の暑い時期から寒い時期へと衣替えする時期に私は勇気を出して学校に通うようになり中学3年生の頃に猛勉強に猛勉強を重ねなんとか平均並みの学校に受かった。

 「…潮夜さん?」

 「あぁ…えぇっと、うん。大丈夫行くわ。」

 少し前の記憶が蘇ったせいか、耳の内部から耳鳴りがしたような気がして、返事が遅れてしまった。

 「そっか。じゃあ明日行こうね。」

 夏野さんはそんな私を何の気にも留めず淡泊にそう言い放った。

 その日からだろうか、私が退屈な日常から色を付け加えてくれたのは。

 白黒の世界から色を与えてくれたのは。

 その日から私と彼女の物語が始まった気がするのは私だけなのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る