ミステリーと言えば緊迫感あふれるものという印象ですが、この作品にはシリアスなシーンはあろうとも緊迫感はありません。その代わり友情、笑い、涙。そんな日常にありふれたもので話が構成されています。それでいてちゃんとミステリー。味わったことのない不思議な読み心地でした。
そしてただミステリーをしているだけでなく、そのミステリー要素が話の中できちんと意味を持っています。その見せ方が素敵でした。
その他にも登場人物の何気ないセリフにちょっとニヤッとしたり、シリアスなシーンで主人公に感情移入したり、色々な角度の味わいがある作品でした。
それから、文章の端々から感じる作者の方の深い知識見識も物語のリアルさを一層際立たせています。
個人的には第3話の夜の東京の町を描写している箇所が、そこに実際に自分がいるかのようなリアリティを感じられる豊かな描写でお気に入りです。