四月

 

 桜

 ああ、季節は巡る。


 卯月


 桜

 酒

 公園

 花見



 花びらが舞う。ひらひら、ひらひら。

 もう一年か。

 振り返る、彼女との時間。


 彼女と連絡を取らず、ひと月以上が経つ。


 どうしているか心配だが、仕方がない。

 彼女に内緒で、俺は皮膚テストを受けた。

 もちろん、今の両親の許可を経て。結果は良。いつでも移植できるよう酒は飲んでいない。

 三食、きちんと規則正しい食生活。


 いつまで、続くかなぁ。

 あと暫くこのままの生活を送るかぁ。

 細々、考える。


 彼女の両親とあの後、話をした。

 DNA鑑定も内緒で……

 判明する彼女の事実。

 母親は泣いていた。


 彼女を助けたのは、今の両親。

 二人がたまたま、行き着いた旅行先での出来事。事故現場より離れた、何もない場所で彼女を発見。

 倒れていた彼女は夥しい火傷、絶え絶えな息。動かない身体。

 奇跡とも言える生存。

 危機状態で助かった彼女。

 

 今の彼女の両親には子がなく、彼女を養子に。楽しく暮らす。

 そんな矢先に現れた男が俺。

 ただの男ではなく、元婚約者。

 話を聞いた後、俺は……

 ……礼を述べた。

 幼なじみの、親にも伝えてない。

 俺から言うことは、何もない。


 決めるのは彼女。


 運命の悪戯も甚だしい。

 彼女との出会いは、偶然か必然か。


 そんなこと。

 問いかける暇があるなら、やる事あるだろう? 俺。


 去年と同じ公園、同じ場所。

 腰を据える俺。


 桜、ひらり。

 ただ違うのは、手にしているのは酒ではなく。

 温かい珈琲。

 一口入れ、喉に流れる感覚を味わっている。桜を瞳におさめ。

 珈琲あと半分かぁ、つまらないことを考えている。

 余韻に浸ると、後ろから蹴られた。

 飲んだ直後に。


 驚き、噴き出す。


 手にしている珈琲も、落ちた。

 急いで振り返る前に、名を呼ばれ飛びついてきた。柔らかい体。

 後ろにいたのは彼女。


 嬉しくて、抱きしめた。

 記憶は戻っては、いない。

 結婚を約束していた、幼なじみはいない。

 いるのは新しいキミ。


 一緒にいるか、いないか聞いてはいない。どちらを選ぼうが、それはキミ次第だ。

 キミのお陰で前の君を、忘れる事が出来た。この先、記憶が戻るかはわからないキミ。


 今は、俺のとなりに居てくれる事を切に願う。

 腕の中で微笑む「キミ」へ

 ありがとう。

 

 

 

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微笑む君へ ~ありがとう~ 珀武真由 @yosinari

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