第15話―エピローグ
太陽の王子ギルバートと、月の姫マリアンナの結婚式は、各国の迎賓を迎え、歴史上類を見ない規模で盛大に執り行われた。
なにせそれは、正真正銘世界を救った王子の結婚式であったのだから。
「マリー!一体君は!何をしているんだ!!」
大きな声にびっくりしてマリアンナは鉢を落とした。それは割れることなく空中で止まっている。
「びっくりしたわ、ジル」
「それは申し訳なかったけど、君は安静にしているべきなんじゃないかな!」
大きなお腹を抱えてよたよたと歩くマリアンナの姿に、ジルベールはいつもいつもはらはらさせられているのだ。
「ずっとベッドにいても、腰は痛いし、暇だし、気晴らしがしたかったのよ」
「気晴らしをするなら、本を読むなり、刺繍をするなり、ピアノを弾くなりあるよね!?」
「少しは歩かないと、足が萎えたら産むのも大変になるわ」
「だとしても、散歩にすればいいよね!?立ったりしゃがんだりなんて、今の君には大きなリスクだよね!?」
マリアンナのお腹は通常の妊婦より大きく膨らんでいる。
「もしものときは妖精さんたちが支えてくれるわ。今だって、私が落とした鉢を受け止めてくれたのよ」
鉢を地面に置いた妖精が、くるくると二人の周りを回る。
「僕も、妖精たちは信じているけど!!けど!」
「わかった、ごめんなさい。もう臨月だからそわそわしちゃったの」
「……僕こそ、臨月だからそわそわして……はぁ、ごめん、声を荒らげて」
「いいわ、心配してくれてるのはわかってる」
マリアンナは反省するジルベールに抱きつき、その背を撫でた。
「君の前で僕はかっこよかった試しがない」
天を仰ぐジルベールに、マリアンナは首を傾げた。
「あなたが私の前で、かっこよくなかったことなんて一度もないわ?」
「あぁもう!力いっぱい抱きしめたい!!」
「ふふっ、この子達が産まれた後に、お願いね」
「もちろん!!」
のちに月の王妃と呼ばれるマリアンナは、初産でうり二つの双子の王子を、その後一人の姫、二卵性の双子である王子と姫の五人を産んだ、多産の王妃として知られる。
王家の双子達は、忌み子として引き離されることなく仲良く育ち、双子の王子は歴史上初めて二人で王位を継いだ。そしてその二人の力により、王国はより一層発展を遂げ、楽園の王国と呼ばれるようになる。
だがこの二人の王子、趣味から何からそっくり過ぎて見分けることが難しく、よく入れ替わっては周りを欺き、困ったいたずら坊主であった記録が残っている。
そして、一人の女性を見初め、二人の思いが成就するのにてんやわんやあったのだが、それはまた別のお話。
おしまい
――何度繰り返しても、母は私を指さしてこう言う。
「こっちにしましょ」
これほどに呪わしい言葉があるだろうか。
私は、黒い瞳でその指を見つめる――
これもまた、別のおはなし......?
【完結?】見えない瞳で得たものは―精霊姫の妹と召使の姉― おうさとじん @lichtmusik
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