第6話 春を呼ぶ歌
セキはいつもの着流しに羽織りを引っ掛け、店の前を
「おはよう御座います!」
元気な声で出勤したのは見習いで入ったばかりの
「おはよう。麗奈ちゃん。昨日はゆっくり休めれた?」
「はい。でも、四月から美容学校に通うので、提出書類をまとめてました。凄いんです! 現職にここの店書いたら美容組合に入っていてなんの問題もなく書類通りました」
「もちろんよ♡ うちはちゃんと組合費も払ってるんだから…」
ジャリ…という音で、そちらを見れば昨日会ったばかりの正樹が照れくさそうに頭を下げた。
「あら、こんばんは。今日は残業はないのね」
セキが簡単に昨日のお客である事を麗奈に説明すると、随分板についたなぁと思う笑顔で挨拶をする。
「ようこそ。こちらにお世話になっています麗奈です。よろしくお願いします!」
「ふふ、彼女だけはね、実はあたし達とは違うの」
彼女はオーナーがここで働くのを認めた唯一の人だ。
正樹が昨日のお代を持って来たと言うのでセキは、やんわりと頂いている旨を伝えたがどうしてもと言う正樹に押され、店内へ招き入れた。店に入ると正樹に驚いたオーナーにセキが苦笑する。
「昨夜のお代を持って来て下さったそうよ。オーナーに貰って欲しい物があるんですって」
正樹は、鞄から大きな封筒を取り出した。それは、三枚のA四サイズの写真。
一つ目は正樹が二十人の仲間と
もう一つは足元で
そうして、最後の一枚の写真に…、セキ達の目が見開かれた。麗奈は一人きょとんとオーナー達を見渡す。あきらかに動揺が伝わり見上げたオーナーの美しい頬をすーと一筋の涙が流れた。ただただ戸惑う正樹に、セキが柔らかく微笑む。
「最高のお代を頂いたわね。オーナー…」
「…ええ。……早速飾りましょう! 私は奥が良いと思うわ!」
直ぐにいつもの彼女達にもどると、入口の扉横か奥かで飾る場所を揉めだした。麗奈とユナが写真を持ち上げ、ここは?ここは?と動き回る。ゲンスケがそこ!と言うたび、エモトが違う!と答えるのはいつもどうりなのだろう。
「又、駅前の民謡居酒屋に行く事もありますか?」
心ここにあらずの正樹の問いかけ。
「もちろん行くわ。この子の入社祝いもしないとね!」
変わらずニッコリ微笑むオーナーの黒い瞳はもう揺らぐ事は無く、あの涙をも幻なのかと思われた。
「
「どうして?」
心底不思議そうに小首をかしげるオーナーの顔は、今迄で一番可愛らしく幼くさえ見える。
「だって好きじゃないんでしょう?」
「あら、そんな事ないわ! 炭坑節は春を呼ぶ歌ですもの!」
満面の笑みでオーナーが言う。セキは、そんなオーナーを見て、何だって楽しくしちゃうのがうちのオーナーね♡とクスクス笑った。麗奈の持つ写真を眩しそうに眺めながら…。
もう春がそこまで来ている。
あなたも少しだけ背伸びして、ワンステップ
おわり
最後までお読み頂き心より感謝致します。
皆様に、極上の幸せが毎日訪れる事を願って。
美容室は怪奇な所でございます【弐】 高峠美那 @98seimei
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