【短編】義妹ユニセックス

 親の再婚でできた義妹の咲ちゃんは女子高校生。

 大阪市内の女学園に通うお嬢様――なんだけれど、高身長のイケメンフェイス。涼しげなショートヘアーの髪と相まって王子様のような女の子だ。


 僕よりカッコいいしモテる。

 けど、家ではちょっぴり甘えんぼなお年頃の妹。

 ギャップで親しい男子の情緒を無茶苦茶にする系女子だ。


 そんな義妹に僕はもうメロメロ。

 咲ちゃんも僕の事を「お兄ちゃん」と慕ってくれている。

 一歳違いということもあり話も合う。

 身体の相性もバッチリ。


 僕たちは年頃の義兄妹という難しい関係にもかかわらず、ひとつ屋根の下でいちゃいちゃラブラブ仲良しな甘々生活を送っていた――。


「お兄ちゃん、週末だけどユニクロに春服買いに行かない?」


「いいね。僕もそろそろ新しい服が欲しかったんだ」


 二人がけのソファーに寝そべっていた咲ちゃん。

 食後の兄妹レクリエーションを終えて一息吐いてた義妹は、デートの申し出を受けるとぴょんとその場に飛び上がった。


「やったー! お買い物デートだ! お兄ちゃん大好き!」


 背もたれから笑顔とお尻をぴょっこりと出す。

 こちらを見つめてふりふりと揺る仕草が可愛らしい。ソファーを引き倒して僕に飛びつくと、ワンコ義妹はすりすりと僕に頬ずりしてくるのだった。


 やはり今日も僕の義妹はワンコ可愛い。

 よく訓練された大型犬みたいな愛くるしさがある。


 持ってたスポーツドリンクがこぼれベトベトになったが些細なこと。

 僕は身に余る幸せを噛みしめた。


 週末のお買い物デートが楽しみだな……。


◇ ◇ ◇ ◇


 あっという間に週末。

 駅前にある複合商業施設のユニクロに僕らはやってきた。


 混雑する時間をちょっと外して来たのだけれど――店内はけっこう賑わっている。親子連れ、若いカップルに夫婦っぽい男女、友達と服を選ぶ若者グループ。僕たちと同じように、新しい季節に向けた準備を兼ねてお買い物デートという感じだ。


 そんな彼らに負けじと義妹と腕を組んで店内へ入る。


 白いニットセーターにキャラメル色の肩紐スカート。いつになくガーリーな格好の咲ちゃん。お買い物でもデートには違いない――本気コーデだ。


 はりきった格好とは裏腹に義妹の顔はだらしなく緩みっぱなし。

 家を出てからずっとはにかんでいる。


 そんな所もギャップ萌えだ。

 カッコいい女子がデレ甘えしてくるのとかもう尊さしかないんだわ。


 腕に絡みつく幸せを堪能しながら、まずは春物のパーカーが並ぶ棚へと移動した。


「うーん、どれがいいかなぁ」


「私は赤いのがいいな。本当は桜色がいいけど、お兄ちゃんの服だし許してあげる」


「厳しいファッションチェックだ。別に咲ちゃんが着るわけじゃないのに」


「……え、着るけど?」


 予想外の返事にスッと真顔になってしまった。


 ――なんて?


 僕の腕を全身で抱きしめる義妹の方を向く。

 僕より背が高い義妹は、僕を見下ろすと不思議そうに首をかしげた。


 耳の前に垂れた黒曜石のような髪がさらりと揺れる。


 からの真顔。


「普通に着るけど、お兄ちゃんのパーカー?」


「……なに言ってんのさ。男物のパーカーじゃないか」


「別に女が着ちゃいけないってルールはないよね?」


「……それはそうだけれど」


「男物の服をあえて女の子が着る。そういうのメンズライクコーデって言って、普通にやってる娘も多いよ。知らないのお兄ちゃん?」


 なるほど。

 そういうお洒落があるのね。


 ごめんね、お兄ちゃん服とかあまり興味がないから知らなかったよ。

 たしかに咲ちゃんは宝塚の男役みたいな精悍さがあるから、そういうファッションも似合うかも。彼シャツみたいな方向でも充分ありかもね。


 けどさ――。


「別に僕の服を着る必要はないでしょ?」


「なんで? お兄ちゃんの服を私も着れたらお得でしょ?」


「お得って……」


「ほら、私って王子様キャラでしょ。服も男物と女物を使い分けててね――いわゆる両刀遣いなの。だからお兄ちゃんの服が着られると助かるんだ」


「それは大変かもしれないけど……」


「あと、お兄ちゃんの匂いに包まれることで私がとてもハッピーになります!」


 曇りなき眼で義妹が言った。

 迷いがなく力強い声色だった。


 長い睫がクーラーの風に涼しげにそよぐ。

 髪がくしゃりと揺れてシャンプーの甘い香りを放つ。

 まるで少女漫画のワンシーン。

 ヒーローの愛の告白みたい。


 ずるいわ。


 こっぱずかしいことを口にしたハズなのにイケメン顔で全部帳消しとかやめて。


「だからお兄ちゃん、一緒に着回しできるあの赤いのにしようよ! ねっ?」


「いや、やっぱり兄妹で服を着回すなんて」


「あ! そうだ! せっかくだから買う前に試着しようよ!」


 少女漫画のヒロイン気分で見惚れていたのがダメだった。

 咲ちゃんが硬直した僕の腕をぐいと引っ張る。そのまま、棚から赤いパーカーを取ると試着室へと彼女は駆け込んだ。丁度、空いていた一番奥。カーテンの向こうに消えると、「待っててね、お兄ちゃん!」と小悪魔系妹みたいなセリフを言う。


 カッコいいのか可愛いのか。

 キャラの両刀遣いも手加減して頂戴よ。


 イケメン女子と小悪魔妹に同時に迫られるとか、少女漫画か少年漫画かわからなくなっちゃうわ。


 というか、本当に買うの?

 咲ちゃんと僕で服を共有しちゃうの?

 それは僕のパーカーを咲ちゃんが着るのと同時に、咲ちゃんのパーカーを僕が着るということでもあるんじゃない?


 義妹の柔らかくて優しい女の子の匂いに包まれて生活するなんて――。


「ダメだ、エッチすぎる。どうにかなりそう」


「お兄ちゃん、ちょっといい?」


「ひゃい!」


 想像して僕が前のめりになった所に、まるで狙ったように声がかかる。

 試着室のカーテンの端からひょっこり顔を出した義妹。彼女は困ったように眉根を寄せると、こっちこっちと僕に向かって手招きしてきた。


 どうしたんだろう?


 嫌な予感しかしないぞ?


「あのね。このパーカーなんだけれど、なんかちょっと変なの」


「変って?」


「ファスナー上げてるはずなのに閉まらないのよ」


 困り顔で「ちょっと見てもらっていいかな?」と尋ねるや、答えも聞かずに義妹は僕の腕を握りしめる。脱衣所のカーテンを一瞬だけ開くと、彼女は急かすように僕を試着室の中へと引っ張った。


 踏ん張ることもできた。

 けど、カーテンの向こうに下着姿が見えたら仕方がない。


 パーカーを着るだけなのになぜかセーターを脱いだ咲ちゃん。

 義妹のあられもない姿を人様に晒すわけにはいかない。

 覚悟を決めると僕は更衣室の中へと飛び込んだ――。


「もー、勘弁してよ咲ちゃん。更衣室に人を連れ込んじゃダメだよ」


「ごめんなさぁい……」


 イケメンからころりと変わって涙顔の義妹。

 はらはらと今にも泣きそうに顔を歪め慌てふためきながら、彼女は赤色のパーカーを僕に手渡す。「どうなってるの? まさか壊したかな?」と尋ねてきたけれど、僕が見た限り変な所はない。


 厚手の生地にゆったりとしたシルエット。

 フードの部分には紐が通っていて絞れるようになっている。

 お腹の前には手を突っ込むのによさげなポケット。

 袖はちょっと広め。


 前側がファスナーでひらくようになっているが、これもよくあるデザインだ。

 ただし、ちょっとファスナーが特殊な奴ではあった――。


「……あぁ、ダブルファスナーだよこれ」


「ダブルファスナー?」


「閉じるスライダーの下に、開くためのスライダーがついてるの。ほら布製の筆箱とかも両方に開けるようになってたりするでしょ」


「……なんでそんなのついてるのよぉ」


 さぁ。

 男心をくすぐる中二病ファッションってことかな。

 ぼくもなんちゃくかもってます。(白目)


 下着姿の義妹が恨めしそうに睨む姿にスリップダメージ。うめき声をぐっと堪えて僕はパーカーを彼女に返した。

 上のファスナーだけ引っ張れば大丈夫だよ――とアドバイスを添えて。


 義妹の心と試着室を騒がせた難事件はここに解決した。


 遠原謙太はクールに去るぜ。

 ひと仕事終えた達成感を胸にきびすを返して試着室の外に出ようとする――と、背中に回した手を咲ちゃんが引っ張った。

 今度はさっきよりも、ちょっとだけ遠慮がちに。


「お兄ちゃん。また、試着室に入ってもらうのも悪いし、もう中に入ってなよ?」


「なんて合理的で理論的な誘惑。どうしよう断る理由がない」


「別に、いまさら恥ずかしがることなんてないじゃない。ね……?」


 さわさわと僕の掌を指で掻いて甘えてくる義妹。

 背中に感じる気配も僕が息を吐く度に少しずつ濃くなっている。

 絡みつくような女の視線を感じて振り返れば――案の定ぴとりと咲ちゃんが僕の胸に飛び込んで来た。そのまま、甘えるように胸板に顔を擦りつける。


 逃がさないと自然に後ろに回した手が、お尻のちょっと上の辺りをくすぐった。


「お兄ちゃんに、いっぱい私のかわいい所を見て欲しいな?」


「……いつも見てるじゃないか、家でいっぱい」


「……こういう所の方が興奮しない?」


「そういうことする所じゃないでしょ」


 そうは言ったけれど――けだものになっちゃいそう。

 暴走する前に僕は妹を身体から離す。ぷぅと頬を膨らませて咲ちゃんは、恨めしそうに僕を一度睨むと、すぐに機嫌を直してこちらに背中を向けた。


 僕の胸にちゃっかりと――赤いパーカーを押しつけて。


「ねぇ、お兄ちゃん?」


「うん?」


「着せてよパーカー」


 後ろ襟を揺らすと咲ちゃんが僕の前に屈む。

 うなじから肩にかけて――義妹の弱い部分が僕に晒すと、鏡越しに義妹が僕に挑発的な視線を投げかけてきた。肩に掛かったメロングリーンのブラジャーが、彼女の微かな息づかいを拾って色っぽい音を立てる。


 表情を隠そうにも正面には鏡。

 どうやら逃げ場はなさそうだ。


 ダメ押しのように下腹部に彼女の柔らかい肌触りを感じる。

 いよいよ直接飛んで来た義妹の上目遣いに――観念してしまうと、意外にも僕の中で激しく暴れ回っていた青臭い感情はすっと収まるのだった。


 まぁ、いつも家でやってることだしね。


「……着せるだけだよ?」


「……わぁい!」


 ただ服を着せるだけなのになんでそんなに怪しく笑うのか。

 悪戯な義妹がこの後にも何か企んでいるのは間違いなかったけど――冴えないお兄ちゃんにはもう反撃のカードは残されていないのだった。


【了】


◇ ◇ ◇ ◇


 KAC20221用に書いたんですがお題とズレたなと感じたのでこちらで供養します。面白ければ評価・フォロー・応援していただけると幸いです。m(__)m

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両想いだった女の子が義妹になったんだが同棲したら毎晩のように僕を誘惑するようになった件について。そしていつの間にか親友に寝取られてしまった件について。 kattern @kattern

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