第5話 中学生が神様で願い事を叶える
魔王を退治した余韻に少し浸っていたおれだが、なんだか、あんまり面白くない。魔王を退治すれば、きっとすげえ面白いだろうと思っていたけど、全然、面白くない。
「魔王、可哀相」
「何も殺すことはなかった」
「わたしはおうちに帰らないと」
と、三人の仲間も全然、褒めてくれない。
なんか、魔王退治って失敗だったなあ。どうせなら、もっと面白いことを計画すればよかった。何にも思いつかないけど。
まあ、いいや。
それは置いておいて。
「きみたち、よくぞ、魔王を倒した。約束通り、願い事を一つだけ叶えてあげよう」
おれがそういうと、三人の目が輝いた。
「本当に願いが叶うの?」
「それはとてもうれしい」
「わたしの願いを叶えてくれるなら」
おれは三人を押しとどめた。
「まあ、待て。まずは、瑞希からだ。どんな願い事だったっけ?」
すると、瑞希は、空を見上げて答えた。
「あたしの願いは、地上の人類を皆殺しにすること。これは、一万二千年を輪廻してきたあたしと森木枯らしの約束。きっと叶えて」
うーん。難しいなあ。その設定、よくわからないんだよなあ。
「人類を皆殺しにすると、瑞希も死んじゃうけどいいの?」
「なんで? あたしは人類じゃないよ。あたしの正体は殺戮の天使だっていってるでしょ。あたしと森木枯らしは殺戮の天使」
はあ。とりあえず、人類を皆殺しにすればいいんだな。そういう反則がありなら、なんとかなるぞ。おれと士郎ともみじは、人類じゃなくて栄光の戦士ということにしておこう。
「いいよ。その願いを叶えてあげよう。これから、地上の人類を皆殺す旅にでも出るといいよ」
「ありがとう。とりあえず、殺戮の天使にふさわしいマシンガンがほしいんだけど」
「はいはい。マシンガンをあげるよ」
おれは、真空からマシンガンを作り出して、瑞希に贈り物した。
つづいて、士郎だ。こいつの願い事も厄介だったな。
「士郎の願い事は何だったっけ」
聞くと、士郎はため息をひとつついて、真剣な面持ちで答えた。
「ぼくの願い事は、全知的生命体のより効率の良い労働付加価値の蓄積だ。さあ、叶えてくれよ、覇樹」
ああ、意味がわからない。
まずは、
「全知的生命体ってのは何なの?」
「宇宙人を含めた知的生命体のことだ。全知全能なら、当然、宇宙人のことも知っているんだろう」
「いや、今回のビッグバンでは、宇宙人とか作ってないんだ。森から魔王城までが全世界だよ。あとは面倒くさいんで作ってない」
「なんで、そんなつまらない世界を作ったりしたんだ。とにかく、存在する世界の全知的生命体の労働付加価値のより効率の良い蓄積だ」
うーん、こいつの願い事、どうでもよくなってきたなあ。
「労働付加価値ってのは何なの?」
「労働付加価値とは、労働者が労働して産み出す経済的価値のことだ。全知全能だというのなら、きっと素晴らしく効率の良い経済社会を築けるんだろうなあ」
ええと。ひょっとして、
「ひょっとして、未来の新しい発見とか全部網羅するの?」
「当然だろう」
それは、それはちょっと無理だなあ。
「情報革命までの進歩でいい?」
「いいわけがないだろう。だから、素晴らしく効率の良い経済社会だよ。大人はみんなこのために頭を使っているのだろう。なんでも願い事が叶うというのなら、叶えてよ」
ううん。こいつの願い事、面倒くさいなあ。
「その未来の発明、全部、おれが考えるの?」
「当然だろう。日本だけで毎年、数万件の特許申請がある。全世界ではもっとだろう。その完全に極まった社会を完成させてよ。これがぼくの願い。全知的生命体のより効率の良い労働付加価値の蓄積を叶えてよ、覇樹。それができないなら、きみが何でも願いが叶うなんて、嘘もいいところだ」
おれは、ものすごくどうでもよくなってきた。
「ああ、士郎の願い事も叶えるから、後で期待しておいて」
ああ、なんで、中学生はこんなやつらばかりなのだろう。もっと、簡単な願いとか思いつかないのかなあ。
次は、もみじだ。こいつは、もっと厄介だったな。
「もみじ、きみの願い事を何でもひとつ叶えてあげるよ」
もみじは、もじもじして答えた。
「ではお願いします。わたしは自殺したいです」
どんよりとする。
神さまとしては、自殺したくなくなるぐらい幸せにしてあげて、老人になるまで幸せに生きさせて、それで、人生に満足して自殺してもらうべきだろう。
「わかった。きみは自殺して死ぬ。それを運命として決定しておいたよ」
「ありがとう」
はあ。どうして、こうも、面白くない願い事ばかりなんだろう。
とりあえず、三人の仲間の願い事は、これから頑張って叶えることにしよう。
「やれやれ、神さまも楽じゃないなあ」
自分で作った世界で魔王退治 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876
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