第7話
悪魔がいた。
悪魔は、そこら中の国々の王を百人の少女で誘惑して、国を売り渡させた。百人の少女の誘惑に勝てる王はおらず、そこら中の国が悪魔のものとなった。そして、国民は苦しんだ。
この世に苦しみが広まった時代であった。
だが、悪魔は、首を傾げていった。
「おかしい。あの国の王だけは、百人の少女でも誘惑されない」
とある国の少年王だけは、百人の少女に誘惑されることなく、悪魔の誘いを退けた。
そこで、悪魔はいった。
「法蔵菩薩よ、助けてくれ」
そして、法蔵菩薩がやってきた。
自分の名前を呼んだものは、例え、悪魔であっても助けると願を立てた法蔵菩薩がやってきた。
悪魔は、あの少年王を誘惑することができない。これでは世界征服ができない。困ってしまったと法蔵菩薩に相談した。
法蔵菩薩は、斧で悪魔の脳天を割って、悪魔を殺した。
「きみは来世、貴族に生まれるだろう」
悪魔の思い通りになる法蔵菩薩ではなかった。こうして、悪魔は死に、そこら中の国が救われた。
法蔵菩薩は、百人の少女で誘惑されなかった少年王とはどんな人物なのか見に行くことにした。
そして、法蔵菩薩は、悪魔に惑わされなかった唯一の王に会った。
美しい長い金髪をした少年だった。
「なんだ。ぼくが百人の少女なんかで心を乱されるわけがないだろう。聖者は常に心をよく鎮めているものだ」
と少年王はいった。
法蔵菩薩は、これはなんとも立派な王がいたものだと感心した。
そして、しばらく、その少年王と遊んでいたのだが、少年王は、川に来ると、水浴びをしたいといい出した。
水浴びも楽しいかもしれないと法蔵菩薩も付き合ったのだが。
少年王はまったく恥じらうところがなく、服を脱ぎ捨てた。素っ裸の裸体を法蔵菩薩の前にさらした。美しい金髪が風になびく。
体は白く、透き通るようであり、胸には形の良い乳房があった。
「きみは、女の子ではないのか」
これでは、百人の少女に誘惑されないのも当然だと法蔵菩薩は思ったのだが、少女はあくまでもそれを聞き入れなかった。
「何を。ぼくは男だぞ」
そういう少女は上も下も真っ裸である。形の良いうっすらと桃色を帯びた裸体をあけっぴろげにさらしている。
いったい、この少女は何者か?
法蔵菩薩が心を良く鎮めて、少女を見ると、少女は転輪聖王であった。
「きみは女の子だよ、転輪聖王よ」
「なんだ、喧嘩を売っているのか。ぼくは男だといっただろう」
少女の裸体がまぶしい。
この少女が本当に転輪聖王なら、いずれ、釈尊に生まれ変わり、悟りを開いて涅槃へと入滅するはずだ。
転輪聖王であるなら、百人の少女でも誘惑されないのは当然であるが。釈尊が百人の少女で悪魔に誘惑されても惑わされなかったのは、後世の仏典に書いてある。
だが、今はただの少女だ。
「しかし、きみは女の子なのだから」
「何を。そんなにしつこいなら、少し痛い目にあわせるぞ」
と少女が攻撃してきた。
少女は、光を集めて、光の矢を法蔵菩薩に向けて放った。
光の矢が法蔵菩薩に向かってくる。
しかし、法蔵菩薩は光の矢を意のままに動かして、方向をそらしてしまった。
「光を操るのはぼくも得意なんだよ」
法蔵菩薩はいった。
「何を。負けるものか」
裸の少女は、負けん気が強く、光の玉を集めて、法蔵菩薩の方へ飛ばしてきた。
法蔵菩薩は、また光を操って、光の玉をかわした。
法蔵菩薩と転輪聖王が光と光を駆使して、激しく戦い競い合った。
二人のまわりは、光があふれ、見るのも眩しい太陽のようであった。
長い光の激突の果て、勝ったのは法蔵菩薩の方であった。
裸の少女は、嘆息していった。
「負けるなんて、生まれて初めてだ」
まさに、この裸の少女は転輪聖王であった。
法蔵菩薩は、
「きみは善行を積めば、来世、貴族より良いものに生まれ変わるだろう」
といって、去った。
法蔵菩薩と、転輪聖王の出会いであった。
いまだ法蔵菩薩は悟っていない 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876
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