俺たちの世界には神様なんていない……

御厨カイト

俺たちの世界には神様なんていない……


「ハァ、ハァ、ハァ……、クッ、ア、ハァ……、そろそろ、そろそろ町に着く。そこまで耐えてくれよ、アナスタシア!」


背中の今にも息絶えしまいそうな彼女に俺はそう声を掛ける。


彼女の腹部は真っ赤に染まっていて、顔は真っ青に染まっていっている。

それに加え、耳元で聞こえる呼吸音がだんだん弱くなっていっていることも、俺を焦らす要因だ。


「勇者、様……、申し訳、ありま、せん……、私、の魔力が、切れてしまった、ために……」


「グッ、お前が謝る必要は何一つ無い!お前はよく戦ってくれた!悪いのは魔物なんて生み出したこの『世界』だ!」


足を止めず、走る。


「です、が、私の、所為で、勇者様に、ご迷惑、が……」


「大事な仲間が死にそうなことの何が迷惑だ!お前には……、お前にはまだまだ生きて、俺の事を支えてもらわなくては!だから、死ぬな、死ぬなよ!」


「……勇者、様……」


「それにしても……、クッソ!まだ町は見えてこないのか!」


鬱蒼と広がっている森を見ながら、俺はそう苛立つ。


早く、早くしなくては……

もう、この旅で仲間を失うのは懲り懲りだ!




そんな事を思いながら、走っていると近くの茂みからガサガサと言う音が聞こえる。


……まさか、敵か?

こんな時に、まったく……ツイてない。

この状況だ。出来るだけ戦いは避けたいし、先を急ぎたいのだが……


そうドキドキしながらジッと茂みの様子を見る。

その茂みから出てきたのは……



「……チッ、なんだゴブリンかよ。焦らせやがって……。」



姿を現したのは1匹のゴブリン。


ゴブリンは足も遅いし、攻撃力もそんなに無い。

だから、よく経験値稼ぎで狩られるモンスターなのだが、今回は無視して良さそうだ。



ふぅ、まだゴブリンで良かった。

これでオークとかだったら、本当に終わっていただろう。




そうして、俺はゴブリンを無視して先を急ぐ。










「……………勇者、様……。」


「あぁ、すまない。少しモンスターがいてな。その確認をしていた。」


「………………さ、い……」


「うん?何だ?」


耳元で何か小さく呟いている。



「………もう、………して、くださ、い……」


「……?すまん、もう一回言ってくれ。」


「……も、もう、……殺して、くださ、い……」


「えっ?」



……聞き間違いか……?

今「殺してくれ」と言ったような。


「ア、アナスタシア、お前今なんて言った?」


「……こ、殺してく、ださ、い、と、言いま、した。」


「……はっ?な、何で、どうして殺してくれなんて!」


「わ、私は、もう、無理で、す。……こ、この傷、だ、ともう、助か、りません。魔力も、もう無い、ですか、ら、回復魔、法も、使え、ませんし、勇者、様も、魔力が、無いの、で魔法、使え、ません、し。」


「た、確かにそうだが、まだ分からないじゃないか!町に着けば良い医者がたくさんいる!お前の傷は完全回復させることが出来る!だから、町まで耐えれば……」


「で、です、が、その町、に、着くには、この、大き、な森を、越え、なくては。」


「……そんなことは分かっている!……そんなことぐらいは……。……ウッ、ク、ウッ、ウゥ……」


「……勇者、様、下ろ、してく、ださい。」



ゆっくりと下ろして、地べたに横たわせる。



「……すまない、本当に、すまない……、お前の事を救うことが出来なくて……」


「勇者、様が、謝る必要、はあり、ません。悪いの、は、この『世界』、ですか、ら……。……勇者、様に、最後の、お願、いが、ございま、す。」


「あぁ、何だ?何でも聞いてやる。」


「……どう、か、ど、うか、勇者、様、の手で、私、の人生に、終止符を、打ってい、ただき、たいので、す。」


「……そ、それはつまり……、俺の手で……トドメを差して欲しいという事、か?」


「は、い」


「グッ……、そんな事、そんな事出来るわけがないだろうっ!何故、何故仲間に対してトドメを刺さなくてはならないのか!」


「……私を、魔物の、所為、で死ん、だことに、しないで……、最後は、愛す、る貴方様の、手で、死にた、いので、す。」


「!」


「……ですの、で、どう、か、ど、うか、貴方、様、の手で……」


「……クッ……、そんなこと、……そんな事って……、……俺も、俺も、お前の事を愛していた……!」


「……それ、は、凄く、嬉し、いで、す。」


「だからこそ、お前の最後の願い、聞き入れよう。」



俺は腰の掛けてある剣に手を掛ける。

……まさか、魔物の命を奪う剣で、仲間の命を奪う事になるとは思ってもいなかった……。



「……ハァ……、それでは、アナスタシア、良いのだな?」


「えぇ、……このアナスタシア、貴方様の事を心からお慕いしておりました……。」


彼女は最期の力を振り絞って、そう淀みなく言う。


「そうか……、俺もだ、アナスタシア。本当にありがとう……。」



深呼吸をする。



「グッ……、ウッ……、う、うわああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」










グサッ














********






ハァ、ハァ、ハァ……




赤い地面と静寂に、俺の息遣いがただ響く。



カランカランと剣を投げ捨て、虚ろな目で”彼女”を見る。



「……」



……やってしまった……。

俺はこの手で仲間を、愛する人を……




その時、ピロピロリンッ!という場違いな音が聞こえる。




『経験値92Exp獲得!勇者アイザックはレベル90にレベルアップした!』




「……ふざけるな……、ふざけるな!!!俺の仲間が経験値だと!?あんな魔物たちと一緒にすんじゃねえよ!」




俺がそんな『世界の理』に文句を言おうとした時、またステータスが現れる。






『レベル90になったことで勇者アイザックはリカバリーを取得

 リカバリー:瀕死状態の仲間を完全回復させることが出来る

       1日1回しか使えないが、魔力を必要としない

       ※死亡した仲間を蘇生することは出来ない  』

















「はっ?」



















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俺たちの世界には神様なんていない…… 御厨カイト @mikuriya777

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