主人公、柴岡さんは、過去の恋に縛られていました。
忘れられたらいいのに、拘れば拘る程どうにかしたい位になります。
十年前に津田駿くんに捨てられたが真実が知りたいと探偵の笹倉氏に頼みます。
せめて、心の整理ができればと思ってのことでしょうか。
依頼は難航いたしますが、柴岡さんは新たな恋を見つけたようです。
楽しみとなって来ると、ますます過去と縁を切りたいと思うようになります。
とある想い出の品が気に掛かりました。
これを持っていても駿くんは帰って来るのでしょうか?
私にもかつて好きな人がおりました。
私がうさぎが好きだからと、可愛いマグカップを誕生日祝いにいただき、そのまま動物園でパンダ舎へ行きました。
突然、下の名で呼ばないで欲しいと言われ、その日のドリアを最後に、全く会わなくなりました。
狂おしくて、原因も分からなく、後ろから髪を強く引っ張られる感覚がありました。
柴岡さん、貴女の気持ちが分からないでもないけれども、言葉で伝えられない想いの行方、それは、自分で最初から整理しなければならないものなのですよ。
例え、私のように、しこりとして残ったとしても。
想いは百パーセント以上、捧げているのだから。
本作、珠玉の短編ミステリです。
是非、幾度も読まれてください。
拝読する度に新鮮です。
十年前に別れた恋人、津田。彼がかつてなぜ別れを切り出したか、その理由を知りたいと探偵に依頼を申し込んだ女性・柴岡。探偵は彼女の依頼に答えるために過去の津田の消息を辿る。
次第に明らかになる津田の消息。そして探偵が突き止めた事実は——。
探偵に調査を依頼した柴岡の心理は、何とも表現し難く複雑です。そこにあったのは、愛情なのか、憎しみなのか。それとも、愛情と憎しみはそもそも深く混じり合って分かち難いものなのか。いずれにしても、津田と柴岡を繋ぐものは容易には解けない呪縛なのだという気がしました。
ラストにずしりと重い余韻の残る、読み応えある短編。おすすめです。