懲役12年

健さん

第1話

俺の名は、高木工事。不況の煽りを受けて、永年勤めていた会社を、リストラされた。2か月ハローワークに通って履歴書を、何社か、出したが、面接まで、たどりつかない。(もう、俺も、50歳だもんな。仕事なんて、あるわけないか。)そんなわけで、俺も、自暴自棄になった。もう仕事なんてしないで、当分遊んでいるかな。中小企業だったが、安いと、思うが、退職金も出た。200万だが。でも、200万じゃなあ~。俺は、クレジットカードを、5枚所持している。普段は、ショッピングに、使っているわけだが、もうどうでもいいや。踏み倒してやろう。と、いうわけで、1枚のカードから、限度額の100万円を、借りた。合計で、500万円だ。友達が、フィリピンマニラに住んでいるので、行こうと、思う。しばらく、700万円持って、むこうで、遊んで暮らそうかと、思う。ちと、その前に、いい男になろうと、思って、一重まぶたから、二重まぶたの整形手術をした。また、クレジット会社から、万が一、追い込みかけられたら、困るので、偽装のパスポートを、作った。”その道”のプロを知っていたので、多少高かったが、頼んだ。バッチリだ。本物と、変わりない。そして、フィリピン航空で、マニラへ飛んだ。マニラ空港で、友達夫婦が、待っていてくれた。タクシーで、アパートに向かった。昔の戦後のような、街だな。掘っ立て小屋の集まりだ。友達のアパートは、鉄筋コンクリートで、集合住宅だ。部屋も2DKで、わりかし広い。その中の1室を、住ませてもらうことにした。ある時、テレビを、見ていると、外から、”バロット”って、物売り?が、叫んでいる。友達に聞いた。「バロットってなんだ?」「ひなの鳥が、孵化寸前のやつだよ。”ギンギン”になる、滋養強壮の食べ物だ。」俺は、外に出て、友達夫婦の分と、その、バロットを買った。「ハウマッチ?」「2ペソ」ってことは、1ペソ2.5円だから、3つで、日本円で、15円か?昔の駄菓子レベルだな。さしずめ、ゆで卵なのだが、早速殻を、割ってみた。ワオ!気持ち悪い。しかも、毛が生えていて、リアルだな。ほんと、孵化寸前の姿だ。友達は、平気の平左で、”それ”を、食べている。俺は、無理。なので、スープだけを飲んだ。その夜、腹をわしつかみされるような、激しい痛みが。脂汗もでてきて、俺は、すぐにトイレへ。下痢だ。しかし、腹の痛みが、とれない。バロットのスープだ。飲まなきゃよかった。そして、友達に、救急車を、頼んでもらい、マニラ病院へ。結局2日間入院するはめになった。そして、退院の日。薬をもらうのと、精算するので、イスに座って待っていると、「イカウ(あなた)日本人だな。」と、大柄な男が、声を、かけてきた。「そうですが。」と、答えると、その男は、警察手帳を、見せた。「なぬ??」「ユーは、加藤けんだな。」「いや、高木、、じゃない、そうです、加藤です。」「何ですか?」「逮捕だ!」「逮捕??」「お前、日本のポリスから、ウオンテッドされてるぞ。」「え~~!俺は、指名手配されること、何もしてないぞ。(踏み倒そうと、しているが、、)何かの間違いだ!!「パスポートあるだろう。見せてみろ。」俺は、躊躇なく見せた。「間違いない!」その警察官は、言った。どうやら、名古屋で2人殺して、しかも、その家に放火した疑いで、同姓同名の”加藤けん”が、やったということだが、しかも、顔も、そっくり瓜二つ。濡れ衣もいいとこだ。何もしてないのに。そして、俺は、ついに、強制送還と、なった。日本での警察の取り調べでも、何を言っても通用しなかった。そして、3回目での裁判で判決。俺は、懲役12年を、言い渡された。今思えば、整形したのが、運のツキだったな~。(完)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

懲役12年 健さん @87s321n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ