1話 ヒーローを討て 中編


俺は上官からの緊急命令を受け、巨獣ジャックが収納されたカプセルを握り締めながら渋谷へと向かった。

目的は巨獣を使った大規模な町の破壊活動。

人類に対してヴィラーン星の要求を知らしめる為の宣戦布告だ。


通勤ラッシュがピークを迎える午前8時30分頃、俺は渋谷のとある高層ビルの屋上に立つ。

改めて屋上からスクランブル交差点を眺めると、有象無象人間達が途切れること無く行き交っているのが見える。

俺の拳は小刻みに震え、止まらない。

これから俺がやろうとすることは、何も知らない彼らの日常を破壊し、奪う虐殺行為だ。

覚悟はとっくに決めていた。

俺達の星では戦争も侵略も日常茶飯事。

目的の為に大勢の罪なき命が失われるのは仕方がないことだ。今までだってそうしてきたじゃないかと自分を言い聞かせる。

だがこの星は俺にとってあまりにも平和過ぎた。

そんな星で俺はあまりにも長く過ごしすぎた。

今頃になってこれが正しいことなのかと自分を疑ってしまう。

だが上層部からの命令故、背く事は許されない。

命令に背く勇気も、何の罪の無い人々の命を踏みにじる覚悟も無い、まさに中途半端な状態だ。


「どうすればいいのか......」


未だに決行する勇気が出ないまま、俺は懐からジャックの入ったカプセルを取り出す。

カプセルは赤くキラキラと発光し、やがて眩い光を放った。


「うわっ !」


たまらず目を覆い、少し経ってから目を開けると、眼前に小さな体躯の鳥らしき生物が翼をバタバタと羽ばたかせていた。


「よう、俺の名はジャック!お前が俺の相棒だな ! 」


自らをジャックと名乗るその鳥の羽毛はオレンジと黄色の中間の色に染められ、頭部や尻尾、翼は燃え盛る鮮やかな炎を模していた。


「ジャックって......炎翼鳥獣ジャックか? 随分小さいな」

「当たり前だろ、この星はエネルギーが足りねえんだから! お陰で本気になれるのは3分くらいが限界なんだよ」


ジャックはつまらなそうにジト目で俺を睨みながら愚痴を溢した。

ヴィラーン星では幾多の生物を育成し、兵器として戦争に利用してきた。

ジャックもその一体だ。

だが地球の環境では彼の体質に合わず、普段はエネルギー消費を抑える為、小さな姿に縮小するらしい。


「まあ良い、とにかく一緒に戦おうぜ! この町で暴れれば良いんだな !?」


血気盛んで戦闘狂なジャックは待ちきれずウズウズした様子だ。


「あ、ああ......そのつもりなんだが......」


俺は煮え切らない態度で返事をする。

そんな姿を見てジャックは未だに俺が迷ってることに気付いたのか、苛立ちながら俺の頭をつついてきた。


「いててて! 何すんだよ !」

「相棒 !さっきから覇気がねえぞ! 何の為にこの星に来たのか忘れちまったのか !?」

「......それは......地球侵略だけど」

「だったらやることは一つだろーが !」


ジャックは大きな声で俺に訴えかけた。

これから大仕事やろうって時にお前がそんな調子じゃどうするんだよと。

勿論分かっている。

俺が優柔不断でウジウジ悩んでるのが悪いんだと。


「俺の命令一つで渋谷の街が地獄に変わる......大勢の人間が不幸になるんだ......そんな重すぎる責任......背負い切れるわけがない」


俺は拳を震わせながら心からの本音を吐いた。

故郷にいた頃は深く考えてなかった。欲しい物は人から奪う、それが当たり前だったから。

だが地球人の住む星で暮らし、地球人と同じ生活をすることで、奪うことの辛さ、奪われる人の悲しみを考えるようになってしまったようだ。


「やっぱ何年も潜伏するもんじゃねえな......」


俺はそう嘆きながら膝から崩れ落ちる。

とことん自分が中途半端で情けない。

ジャックはそんな俺の言葉を聞いてニコッと微笑む。


「なんだ、そんなことか......だったら二人で背負えば良い」

「え...... ?」

「俺達はまだ出会ったばっかだけどさ、一応これから一生かけて付き合う仲になる相棒だろ? どんなに重たい荷物だろうと責任だろうと、独りより二人で背負った方が楽だろ」


ジャックは寄り添うように俺の肩にその小さな脚を乗っけた。


「お前は怖くないのか? 自分の手で多くの命を奪うんだぞ ?」

「まあな、だが俺もそうだが生き物は生きる為に他の生き物を殺して命を頂くもんだろ? それの延長に過ぎないぜ」


ジャックは俺の問いに少し考えた後カラッとた感じで答えた。


「そんな単純なもんじゃ......」

「難しく考えんなよ、俺達は生きる為に戦ってるだけだ、誰も責めやしない。それでも辛く感じるなら、責任ってやつを一緒に背負おうぜ、相棒」


ジャックは優しい声色でネコのように目を瞑りながらニコッと微笑んだ。

こいつとは会ったばかりだが良いコンビになりそうだとなんとなく確信した。


「ああ、分かったよジャック、俺の名はG-0(グレイ)、地球人名は宇城大宙だ」

「じゃあソラって呼ぶぜ相棒 !」


俺とジャックは手と翼を合わせてハイタッチを交わし、本当の意味で相棒となった。


「よし、巨獣よ、炎翼鳥獣ジャックよ! いざ大いなる姿を現し、赤き炎で地を染め上げたまえ !」


完全に吹っ切れた俺は声を張り上げるように詠唱する。

その瞬間、ジャックの身体に変化が訪れ、徐々に高層ビルと並ぶくらいの大きさへと巨大化していく。

その際、顔つきも可愛らしい小鳥のような顔から鷲のように精悍かつ禍々しいものへと変わっていく。


「クエエエエエエエ !!!」


50mはある巨大な姿へと変貌したジャックは雄叫びを上げ、大きく翼を広げた。


「さあ、進撃開始だ !」

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地球侵略目指して今日も宇城君は頑張ります ! ドSフライドポテト @k8ikuchi521

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