きみを撃ち抜く言葉は何?

達見ゆう

正月のある一日、または威厳を取り戻したい亭主のあがき

 僕はリョウタ。ちょっと年上で最凶な奥さんがいる。

 当然、立場は弱くてかかあ天下なんてものではない。倒した不審者は数知れず、異世界では野菜を切るようにモンスターを倒した強者だ。

 僕自身には暴力はないが、「四十肩マッサージの刑」というものがある。合法的ではあるが、痛いものは痛い。

 しかし、その後は身体の調子がいいからやはり愛のムチ、いやマッサージなのかもしれない。


 いやいやいや、さすがに僕だって亭主の威厳は少しくらいは無いと。職場内でもユウさんの凶暴な武勇伝は有名だから僕の裏のあだ名は「ドM亭主」だとか「ドMなビーストマスター」やら「奇特なドM」だと言うのも知っている。って、全てドMが付くのかよっ!


 何か彼女の弱点はないかなあ。あ、いや、弱らせるとかじゃなくて、恥じらうような甘いセリフとか。


 少し考えた後、僕は厚手の紙を買い、パソコンに向かい作業を始めた。


「ふわ〜、本も読み終えたし、地上波もドラマや映画も面白そうなのないし、バラエティーは論外。コロナで初詣は自粛だし、無料コンテンツは見尽くしたし。正月は意外と退屈。有料の何かを契約して配信観るかなあ」


 ユウさんがコタツで大あくびしているからチャンスである。僕はカードを持って話しかけた。


「ユウさん、ユウさん。試しにカードゲーム作ってみたんだ。テストプレイ付き合ってくれない?」


「どんなゲーム?」


「それぞれのカードには質問が書かれている。手持ちのカードを相手に提示して答えてもらう。的はずれな答えや、答えられないとアウト。アウト三回で負けという暫定ルール」


「ふーむ、質問内容によっては面白そうだな。やってみるか」


 よし、乗ってきた。あとはあの質問カードが僕に行くようにちょっと細工してあるから普通にゲームを始めよう。


「じゃ、先行は私。なになに『あなたにとっての格言は?』うーん、質問が好きな食べ物とかじゃなく深いチョイスだな、おい」


「大人向けだから。で、答えは『藍は青より出て藍より青し』」


「愛?」


「ラブじゃなく、ブルーの藍だよ! 師匠を超えろと言う意味の格言。じゃ、僕の番。『君にとっての最悪は?』」


「最悪……リョウタの健康診断が要精密検査となり入院だな。食事療法になったら料理が面倒くさすぎる」


 う……僕はキツくなった腹を見て気まずくなった。ね、年末年始のご馳走に酒がいけない。それにコロナ禍でフードレスキューサイトから酒もドンと買ったのもいけない。そしてお約束の運動不足。


「じゃ、私の番。『きみにとって心が折れる言葉は?』なんか、『あなた』と『きみ』と『君』と統一感ないな」


「まだ試作品だから。心が折れる言葉はもちろん『デブ』だよ」


「自覚してるなら運動しろ、デブ」


「う……寒いからなあ」


「ったく、だから『デブ』なんだよ」


 さ、早速折れる言葉を使ってきた! しかも二回も! うぐぐ、美味しい物がたくさんあるのがいけないんだい! ダメージをくらいながら僕はいよいよあのカードを出す。


「僕のターン! 『きみを撃ち抜く言葉は何?』」


 ユウさんは怪訝そうに首を傾げた。


「ずいぶんと抽象的な質問だなあ? ちょっと待って」


 さすがにユウさんは悩み出した。確かに傷つける言葉、胸キュンな言葉、解釈次第でいろいろある。いずれにしても弱みが握れそうだ、ククク。


「えーと、『君はどんな地上の薔薇より美しい』かな」


「え???」


 胸キュン通り越して、歯が浮く。な、なんでそんな言葉をチョイスした?


「こないだプレーした乙女ゲーの推しのセリフ。キュンキュンして胸を撃ち抜かれたわぁ」


 うっとりとするユウさんを尻目に僕は固まっていた。あんなセリフ、イケボの声優だから言えるのであってメタボアラフォーおっさんが言うと空気が氷点下になる。聞き出せたことは聞き出せたが作戦は失敗だ。


 〜〜〜


 リョウタが何か企んでいることくらいわかっていた。ニヤニヤしながらいろんな言葉をタイピングしてた時点で何かを探ろうとしていることなんてお見通しだ。

 でも、さっきのセリフは刺さるを通り越して撃ち抜かれたなあ。非現実的だからということもあるけど、何か言いたいなら素直に「ありがとう」だけでもリョウタからなら嬉しいのにな。


「で、どうする? 私のターンを行くぞ。『きみにとっての黒歴史を一つ晒せ』」


 リョウタは真冬だというのに汗をダラダラとかいて固まっている。策士策に溺れるってやつだな。


「ま、気楽にミカンでも食べながら遊ぼうよ」


 私はカゴのミカンを差し出すのであった。






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