【あとがき――という名の簡単な解説】



 はじめましての方ははじめまして、そうではない方はいつもお世話になっております。

 吹井賢です。


 こちら、『ホスピタルベッド・ディテクティブ』は、カクヨムWeb小説短編賞2021の為に執筆された短編です。ですが、その実、「久々に短編ミステリ書きたいな」「というか、アルマを活躍させたい」という思いだけで書き上げられたと言っても過言ではありません。吹井賢は彼女のことが大好きなのです。

 あ、「『御陵アルマ』って他の作品のキャラなの?」と気になった方は、カクヨムに掲載中の『僕のホームズ、紹介します!』を是非ご覧ください。


 解説というほどの話でもないのですが、この短編は、先に触れた『僕のホームズ、紹介します!』で半分死に設定になっていた、「アルマは人当たりも性格も滅茶苦茶に悪い」という部分をピックアップしています。半分どころか、八割がた、死んでいた気がしますね、その設定。何せ、向こうでは割と「優しいお姉さん」なので。少なくとも、あっちの語り手に対しては。

 人によって態度が変わる、というのは、悪いことのように言われがちですけれど、肉親や恋人、親友に対する態度と赤の他人に対する態度は違って当然、というのも道理だと思います。「滅茶苦茶に性格が悪い」という設定のアルマが、『僕のホームズ、紹介します!』の中では、「多少皮肉っぽい」「ちょっと常識外れ」くらいに収まっていたのは、周囲の登場人物と関係性を築けていたからです。

 では、そんな彼女が、親しくない相手とどんな会話をするのか?というのが、この短編で描きたいことの一つでした。そして、それは我ながら見事に達成できたと思います。鴨土刑事は「お前は一度口を開くと一回嫌味を言わないと気が済まないのか」と心の中でツッコミを入れていますが、本当にこの短編のアルマは皮肉と嫌味のオンパレードです。常に傲慢で、人を小馬鹿にしています。

 一つだけはっきりお伝えしておくと、鴨土晴昭は決して悪い人物ではありません。アルマに対して悪意を持っているわけでも、危害を加えたことがあるわけでもありません。単に、興味がない相手に対するアルマの態度がああなのです。そして、アルマの側があんな態度だからこそ、鴨土刑事は「この小娘め……!」と吐き捨てるのです。

 あくまでも、口には出さずに。


 さて、今回のトリックについて。思い付いたキッカケは新型コロナウイルス感染症の蔓延です。正確には、感染症対策からです。

 感染症の蔓延により、公共施設からコンビニまで、あらゆる建物の玄関に消毒液と検温器が置かれるようになりました。それ自体は良いことだと思うのですが、ある日、コンビニに入店し、アルコール消毒を行った際、ふと気付きました。「これ、車椅子ユーザーの方の邪魔になってないか?」と。

 コンビニエンスストアの入り口なんて、そう広くはありません。その入り口の、真ん中に消毒液の置いた台が配置されていたのです。当然、車椅子で中に入ろうとするとぶつかってしまいますよね。「自分は困っていないし、何なら気付いてもいないが、実は誰かにとっての障壁になってしまっている」……。こういった事象は有り触れています。


 そんなわけで、今回の事件の肝は『車椅子』と『有効幅員』でした。社会福祉の専門家、『僕のホームズ、紹介します!』に登場した鞍馬輪廻なら、一目見た段階で、あるいは名探偵であるアルマよりも早く、違和感を覚えたことでしょう。

 なお、言うまでもなく、車椅子を借りてきたのは鞍馬輪廻だったりします。

 社会派ミステリと標榜するつもりはありませんが、『御陵アルマ』という探偵の「精神科病院に入院している(≒バリアフリーやユニバーサルデザインが当たり前の場所で暮らしている)」という点を謎に組み込めたのは良かったと自画自賛しています。


 最後に、スペシャルサンクスとして、建築関係の友人Hへ。

 日本家屋と尺貫法についての考証でお世話になりました。

 『犯罪社会学者・椥辻霖雨の憂鬱』第二巻に続いて、何度もありがとうございます。


 この作品が、皆様の一時の楽しみになれば、それが作者にとって最高の喜びです。

 それでは、吹井賢でした。


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ホスピタルベッド・ディテクティブ 吹井賢(ふくいけん) @sohe-1010

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