名探偵・明智ホム、最大最悪の事件

結騎 了

#365日ショートショート 014

「みんな、その場から動くな!」

 ここは洋館の一室。大きな声が響き、一瞬にして緊張が走る。そこに集まっていたのは、ミステリ愛好サークルの男女5人。そして、偶然そこに泊まることになった探偵の明智ホム、ならびに助手の和都を加えた、計7人である。

「そのまま、決してなにも手を触れることがないよう……」

 場を牽制しているのは、明智だ。新聞にテレビに引っ張りだこ、名探偵と名高い彼は、またもや死体と遭遇してしまった。大雪のため下山ができず、泊めてもらった怪しげな洋館。そこでは、ミステリ愛好家の6人が互いの執筆した作品を読み合う催しが行われていた。名探偵ならばと歓迎された明智と和都だったが、一夜明け、皆が広間に集まると、そこにはサークルのリーダー・もり宛男あておが死体となって転がっていたのだ。

「皆さん、ホムさんの指示に従ってください。死体はもちろん、ドアノブや窓にも、一切手を触れないでください」

 明智に続くように、和都が説明を加えていく。いわゆる現場保全である。サークルのメンバーは、恐怖を顔に浮かべていた。しかし、この中に……。きっとこの中の誰かが、森氏を殺害した犯人なのだ。和都は、彼らを注意深く観察していた。

「よし、それでは……」

 明智は、まずゆっくりと死体に近寄った。森氏は、体中の穴という穴から血を垂れ流している。そして、見るからに苦しんだ表情。相当な苦痛に追い込まれたことだろう。

「ふむ……」

 死体を一通り観察した後に、明智は窓を調べ始めた。窓の外は、白銀の世界。就寝時まで降っていた雪が辺り一面に積もっている。明智は人差し指を立て、サッシを静かになぞる。

「和都くん、この洋館の見取り図と部屋割りの一覧を調達できるかな」

 そう言いながら、名探偵はサークルのメンバーに改めて向き直った。

「みなさん、まず分かっていることは、これは明らかに他殺ということです。被害者の森氏は、体中から血を噴き出し絶命している。つまりこれは何かしらの毒物が使われたとみるべきでしょう。目立った外傷はありませんからね。窓のサッシには埃が積もっており、開けた形跡は無し。窓の外、雪の上にも足跡はありませんでした。そして、この部屋の鍵はあろうことかリーダーである森氏ご本人が管理していた」

 張り詰めた空気。誰かが静かに息を飲んだ。

「つまり、これは密室殺人です。それも皆さんは、ミステリの愛好家だ。生涯をかけたトリックが仕組まれていることでしょう。しかし、この明智ホムは必ず真実を暴いてみせます。。仮にそれが、どんなに信じがたく、残酷であっても……。皆さんと、そして私は、それに向き合う責務があるのです!さあ、それではひとりずつ、昨晩の行動についてお伺いしましょう!」



 その頃、遠い宇宙の果て。イレギュラ星人の宇宙船が、ゆっくりと母星に向けて航路をとっていた。船内にて、直径2mの頭部を持つイレギュラ星人・ベイトが、今回の任務に関する報告日誌を執筆している。

「○▼※△☆▲※◎★●○▼※△☆▲※◎★●○▼※△☆▲※◎★●○▼※△☆▲※◎★●○▼※△☆▲※◎★●(訳:地球へのイレギュラ星人の偵察を偶然目撃した森宛男という人間について、無事に処刑が完了した。大気圏外より、処刑ビームを対象生物に向けて発射。建物などをすり抜け、対象生物の血を一瞬にして沸騰させるこの発明には、いつも大助かりである)」

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