第13話 月が魔法をかけた夜
博多駅まで車の行列がつづいた。
その中の一台の車のドアが開き千尋とニアが降りる。
「来年のゴールデンウィークもニアを連れて遊びにいくから」千尋が一度車の中に叫ぶと一目散に駅まで走り出した。
地下道、赤信号、改札口。
あらゆる障害を持ち前のパワーで突破したが、階段を上がっとき新幹線は発射した。
「ああああああ」顔を覆ってベンチに座った。
ニアがコーヒーを買ってきて千尋の隣に座る。
千尋は受け取った冷たいコーヒーを一気に飲み干して、長い息を吐いた。
「明日、会社には遅刻だ」難しい顔をして嘆いた。
ニアは空を見上げた。
月が出ているが、大分欠けている。
「お嬢さん、満月の夜に恋人は魔法使いになるのです」ベンチから立ち上がり、千尋の対して深く頭を下げてお辞儀をした。
「魔法使いさん」ニアに笑いながら声をかけた。
「私は普通に生き。
普通に老い、普通に死にたい。
恋人に魔法を求める人種じゃないわ」千尋が小さく手を振って拒絶する。
千尋の体が青く光、静かに浮き出した。
とうとう、このアンドロイドは主人の命令を無視した。
「今夜が、最後の魔法です、最後のわがままをお赦し下さい」
ニアは千尋を抱き上げるとそのまま空へと飛び立った。
千尋はゆっくりとニアの首に手を回した。
「またウソをつく、あなたは子犬がトラックにひかれかけたら、能力を使って助けてしまう人、最後ではない。
これからもすぐに使うわ」
空を見渡せば星はキラキラ瞬き、月は見事なぐらい欠けている。
「こりゃ、ひどい」
月を見て思わず声が漏れる、満月とは程遠い。
ニアはウインクするだけ。
千尋の居住空間の快適さを保ちながら新幹線より早く飛び、小倉駅のホームに下りた。
博多駅で目が合った最後尾に乗っている車掌さんが目を丸くすると、千尋は小さく会釈をした。
「あなたは自由なのね。多分人間の男より」
ニアは先に乗り込む、千尋が少し躊躇するが、千尋が心のどこかで列車のレールや乗り物に人生を重ねた。
ニアは笑って強引に手首を握った。
「でも、誰もが愛の奴隷ですよ、千尋にも自由恋愛なんて言わせない。
愛の証として操をたててもらうよ。
僕も例外ではない」
千尋の悩みは女の子なら持つ当然のものとニアは受け入れた。
今は考え事をする千尋を新幹線の中に引っ張り込んだ。
ニアが条件提示をしたのは珍しい事だが、千尋の側に選択肢などなかった。
人造人間ガラクター 鈴木 @yann1234
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