第4話 誰も悪くないよ
「吉祥、大丈夫?」
僕とおばさんがブランコに乗っていると、車が停まって、吉祥君のお母さんが駆け寄って来た。
「うん、すごい楽しかった!」
電話で分からなかったけど、僕の姿で、吉祥君と違うって気付くかな?
「早速ですけど、約束のものは?」
おばさんは、ブランコから降りて、急に僕を抱き締めたけど、その手には、折り畳み式のナイフを握ってた。
「持って来たわ」
お金の入った黒いカバンの中身をおじさんが確かめた。
「偽札ではないし、探知器も無さそうだ」
3億円もすぐ用意出来たんだ、スゴイお金持ち!
「吉祥を返して」
「ほら、戻りな」
おばさんは、僕を放そうとしたけど、僕は離れなかった。
「おばさん、お願いが有るんだ。そのお金で、子供が助かったら、働いてお金を返すって約束して」
僕の言葉に、おばさんも、吉祥君のお母さんも驚いた。
「おばさんは、悪く無いの!癌の子供を助けるお金が、すぐに必要だっただけ!だから、おばさんに、お金を貸してあげて」
「吉祥、余計な事を言わないで、子供は大人の言う事を聞くの!さっさとこっちへ来なさい!」
吉祥君のお母さんが、怖い顔で叱って来た。
「余計な事なんかじゃない、大事な事だよ!どうして分かってくれないの?」
「吉祥?」
もう、吉祥君じゃないってバレてもいいと思った。
その時、僕のお母さんの車が公園で止まって、吉祥君とお母さんが出て来た。
吉祥君のお母さんは、僕が吉祥君だと思ったままだったから、本物の吉祥君には見向きもしなかったけど。
「こんばんは、向田さん。お宅に伺う所でした。吉祥君、お返ししますね。代わりに、うちの息子を連れて行きます」
「えっ、どういう事?」
その時やっと、吉祥君のお母さんは、吉祥君の方を見た。
吉祥君と僕で、入れ替わった事を大人達に説明した。
「吉祥のせいだったのね!」
「吉祥君を怒らないで!僕は、すっごーく楽しかったんだから!」
「僕も、とても楽しかった!」
お母さんが、笑い出した。
「無事、元通りで良かったけど、まさか、真佑が誘拐されてたなんて!」
「お宅は良かったかも知れないですけど、騙されて、お宅の息子の為に3億円も支払った我が家はどうなるんですか?」
不満そうな、吉祥君のお母さん。
「それは、後々にお返しします!」
きっぱりと言い切ったおばさん。
良かった、おばさん、ちゃんと返すって言ってくれた!
「お母様、お家にはもっとお金有るんだから、この人達を許してあげて」
「返すなんてどうかしらね!吉祥は黙っていなさい!」
吉祥君のお母さんは、さっき僕に叱ったような怖い顔で叱った。
「そういう態度良くないです!自分の息子が入れ替わっている事にも気付けないのは、母親として吉祥君に向き合ってない証拠です!吉祥君、悪い事はちゃんと謝れて、自分の意見も言えて、思いやりの有る良い子です!もっと、吉祥君に目を向けて下さい」
お母さんが吉祥君のいいところを話すと、吉祥君のお母さんも少しは考えてくれている様子。
これからは、吉祥君の家も変わるかな?
変わると良いな!
そんな僕の願いが叶ったのか、入れ替わった後から、僕と吉祥君は、よく遊ぶようになった。
気が合わなそうだった、お母さん同士も打ち解けたよ。
大人って、よく分からないから、見かけ上だけかも知れないけどね。
おばさんとおじさんの子供は、あのお金で新薬を使って回復して、もうすぐ退院出来るみたい。
余ったお金はすぐに吉祥君の家に戻して、借りたお金は、毎月少しずつだけど、返しているようだよ。
制服を着間違えただけで、こんな事になると思わなかったけど、ちょっとした冒険も出来たし、吉祥君とはお友達になれたし、僕は大満足!
【 了 】
間違えて着てしまっただけなのに ゆりえる @yurieru
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