7


「いない……」


まずは見付けやすそうなあのキッチンカーから探そうと、改札を出て真っ直ぐ駅前広場に来たのだけれど、数台並ぶキッチンカーの列にあのおかしな二人の車の姿はどこにもなかった。

ここに来れば何とかなると思っていたのに、早速当てが外れてしまった。

他にいそうな場所の心当たりもなく、早々に行き詰まる。

となると、俺に残された手段は一つ。


「……手当たり次第、探すっきゃねーな」


こうなったら勘だ!

迷ってる時間がもったいない。

運が良ければすぐにどちらかに会えるだろう。


そう意気込んで走り出したのは一時間ほど前になるだろうか。


「……こういうのは勘でどうにかなるもんでもないんだな」


大通りを一通り探して、裏道、脇道と思い付くままにいろいろ歩いているうち、いつの間にか見覚えのない場所まで来てしまった。

周りは高井さんどころか人の気配すらない。

昼間だというのに妙に静かなのがどこか不気味で、早く帰ろうとくるりと方向転換した時。

遠くで微かに誰かの悲鳴が聞こえた気がした。

躊躇ったのは数秒。

昨日の高井さんの姿が頭に浮かんで、声のした方向へ走り出した。




「高井さんっ!」


漸く見付けた高井さんは、狭い路地にこちらへ背中を向けて立っていた。

体の横に下ろした右手から赤黒い雫が滴り落ちるのが遠目からでもわかる。

よく見ると横の壁にも同じような色の染みがあった。

内心ビビりまくっているのをセルフで叱咤激励しながらそろそろと近寄ると、高井さんの他にもう一人、よれたスーツを着たおじさんが倒れているのが見えた。さっき聞こえた声はきっとこの人のものだったんだろう。

おじさんは気を失っているのか、目を閉じたまま動かずにいる。


まさか……。

嫌な緊張感が走る。すぐにおじさんの横に屈み込み、怪我がないか確かめていく。

よかった。どこもなんともないようだ。

高井さんの怪我はどうやら自分で壁を殴った時のものらしい。

なぜそんな事をしたのか考えるのは一先ず置いとくとして、優先すべきは手当てだ。

右手の甲からはまだ血が出ている。

今も止まらない様子を見ると結構深い傷なわけで、絶対に痛いはずだ。というか見ているこっちが痛い。


「高井さん、あの、血が出ているので一旦手を見せてもらっていいですか?」

「…………」

「早く手当てした方がいいですよ?ちょっと怪我の具合確かめますねー……ってうわ!」


手を取ろうとした途端、それまで動きを止めていた高井さんが急に勢いよく腕を振り上げた。

顔に当たりそうになるのを反射的に後ろに下がって避ける。

高井さんは俺の事など見えていないかのように、俺の後ろで倒れたままのおじさんを鋭く睨むと、低く唸りながら襲い掛かろうとした。


「それはダメです!」


すぐに後ろに回り込み両腕を押さえてなんとか拘束したものの、今にも振り解かれそうだ。気のせいじゃなく、昨日よりも力が強くなっている。

やばい……、俺だけじゃそう保たない。誰か……!


「あっ!」


高井さんに腕を振り払われた。再び腕を掴もうと手を伸ばすも、指先を服が掠って遠ざかる。間に合わない。そう思った瞬間。


「あとは任せな、少年」


耳許で声が聞こえて、体の両側を何かが勢いよく擦り抜けて行った。

いや、何かじゃない。あれは人だ。

しかもその姿には見覚えがある。

はっとするほどの小柄な美少女と、長い前髪で片目が隠れた背の高い青年。

突如現れた二人組は、勢いそのまま真っ直ぐに高井さんに向かって行った。







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ツキモノオトシ 柚城佳歩 @kahon

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