最終話 リバース
私は流星君と付き合って1か月になる。
でもマズイ事が起きた。
私は流星君とデートの後、スマホを落としてしまった。そしてそれを流星君のお母さんに拾われてしまった。もし流星君にスマホの中の動画を見られてしまったら、この恋が終わってしまうかもしれなかった。
そして月曜日の放課後、これから大学近くの公園で会う約束をした。
流星君は約束の時間に少し遅れてやって来た。顔の表情を見てすぐにわかった。
彼は確実に私のスマホの中の動画を見てる……。
私は泣きそうになった。
流星君は公園に着くなり、私に私のスマホを差し出した。
「なんか、うちの母ちゃんがいたずらしたんだけど、気にしないで」
「えっ?うん……」
二人の間に沈黙が流れて、気まずい雰囲気になった。
「あの……私のスマホの中の動画……見たよね?」
「うん、ごめん……」
「……だよね?」
「正直、驚いたというか……女性ってこんなに変わるんだって」
私は動画の中に自分のメイク動画を保存していた。すっぴんからどんなふうに変わるかを撮影していた。正直、私のすっぴんはかなりブサイクだ。
だから流星君が驚くのも無理はなかった。
「どうだった?」
「うん……ちょっとデコりすぎというか、完全に別人と言うか……」
私はその言葉を聞いて泣きそうだったけど、食い下がった。
「パッケージを変えただけだよ。みんな女の子は化粧するじゃん。私は人より少しデコレーションが多いだけ。中身は同じだから」
「まあ、そうなんだけど……でも、少しじゃないよね?」
「……」
「でもやっと謎が解けたよ。雨が降り出したらさ、僕の前から姿を消したじゃん?あれって雨で化粧がはげるのを隠したかったんだよね?なるほどね」
流星君は半笑いで私に言った。
私は流星君の態度の変わり様にだんだん腹が立って来ていた。
わたしのすっぴんを知るまではわたしの言う事をなんでも聞いてくれる、優しい彼氏みたいなスタンスだったのに、今日はなんか上から目線で付き合ってやっているみたいな。そんな人だったっけ……?
「じゃあ、私も言わせてもらうけど」
わたしの切り返しに流星君は驚いた表情を見せた。
「流星君だってわたしに隠してることあるんじゃない?」
「ないよ」
「嘘ばっかり」
「ないってば」
「私、知ってるんだから」
「何を?」
次の瞬間、私は昔習った柔道で、彼に背負い投げを決めた。彼を背中から地面を叩きつけた。
「痛て……何すんだよ」
「頭」
「えっ?」
流星君は自分の頭の変化に気づいて、慌てて何かを探し始めた。
彼は私の足元に転がった自分のカツラをつかんで、慌てて無造作に自分の頭に収めた。私は地べたに座り込んだ彼を見下し指差しながら言った。
「それに」
「えっ?」
「靴」
彼はシークレットシューズを履いていた。
「流星君だってデコってるじゃん」
流星君は何も言わず、立ち上がった。
「わたしはね、流星君がデコらなくても、好きなの。外見なんかどうでもいいの」
「……ごめん……」
流星君は頭を下げた。私はやりすぎたかな、と感じて胸が痛かった。
私は走って公園のトイレに行って顔を洗ってメイクを落とした。
流星君の前に戻って来て、私は自分のすっぴんを見せて言った。
「私のこと、覚えてない?」
「えっ?」
「私たち小学校の時に遭ってるんだよ」
流星君は「えっ?」と言いながら私の顔をまじまじと見た。
「でも、知り合いに岸本って名字の人はいないけど」
「私の親は離婚して、その時とは名字が変わったの。私は栗原彩花。覚えてない?」
「隣のクラスの?」
「そう!覚えててくれたんだ……感激」
「えっマジか……」
「流星君はね、初恋の人だったの。ほとんど話したことはないけど、ずっと好きで……、ずっと忘れられなくて……。それでどうやったら流星君と付き合えるか考えて、メイクにたどり着いたの。」
「ありがたい話だけど……」
流星君の浮かない態度から私は察した。
そうだよね、流星君投げ飛ばしちゃったし、もう終わりだよね……。
「たった1か月だけど、初恋が成就して、流星君と付き合えて夢みたいだった。ありがとう」
私は涙声で、流星君に深く頭を下げた。
流星君は「あのさぁ」と言って話を続けた。
「ひとつだけお願いがあるんだけど」
「何?」
「彩花はずっとデコったメイクのままでいてくれないかな?僕もカツラをかぶって、ハゲを見せないようにするからさ」
私は涙をこぼしながら「うん、喜んで!」と答えた。
夕陽が公園を照らし、二人のシルエットを引き伸ばしていた。
私はさっき流星君を投げ飛ばした拍子にズレてしまったブラの中のパットを慌てて直した。
おわり
デコレイト☆ラブ 芦田朴 @homesicks
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