第4話 殲滅
高く、高く飛翔する。
夜の教会から飛び立って10分と経たずして、既に教会は豆粒よりも小さくなっていた。
(本当なら転移魔法などで来れれば良かったのですがね……)
ノアは心の内でそう苦言する。
ノアはこの世界に来るにあたって、「世界」との盟約により殆どの能力に制限が掛かっていた。
万が一そのままの力を本気で行使すれば、一部の歴史に影響することは愚か、世界そのものを破壊しかねないからである。
その為、使える力や魔法も、この世界に存在する物のみに限定されていた。
しかし、それすら殆ど枷になってない様子で、音速を超えた速さで飛翔するノアは、一瞬にして目的地までたどり着いてた。
標高およそ5000m。遥か下に雲が見える所まで来た所で立ち止まり、眼下に広がる景色を眺める。今は都合よく雲なき快晴の為、眼下に広がる光景を端から端まで見渡すことができた。
どうやら、空間の亀裂から流れ出てきた黒い液体のようなものは、鬱蒼と生い茂る大森林の中心に向かって落ちたようで、そこから波紋を作るようにして辺り一面に広がっていた。
そして、その黒い波の中心地であった広大な森林も、今ではほぼ完全に呑み込まれ、波の表面から覗いている僅かな木々の枝だけが、そこに広大な森があったのだろうと予想できる程度にしか認識できなかった。
しかし、その枝たちもずぶずぶとゆっくり黒い波に吞み込まれるように沈んでいっており、完全に呑み込まれるのも時間の問題だろう。
黒い波は既に森を越え、海を越え、遥か遠くの海岸沖にまで達していた。
遠見の魔法で確認すると、森の近くに点在する村や地域でも既に被害が出ているようで、一部では
多重防壁魔法を行使しているようだった。
しかし、それもあの波には砂の城がいいところだろう。数分と経たず防壁を破り街の内部に侵入すると、瞬く間に家などの建造物や人々を飲み込んでいった。
しかし思っていた以上に状況が悪い。
別段、この程度の規模であったならば対処は容易い。しかし更に遠見の魔法で地平線の端を見ると、別の所でも空間に亀裂のようなものが発生していた。恐らく位置的には日本だろうか。
他の地域よりも神格の多い地域だが、それを黒い波が飲み込んだとなると少々厄介なことになる。
(あまり悠長にはしていられませんね)
ノアは眼を閉じ、意識を集中させる。
「
そう言うと。自身の意識をこの世界の根源、その深淵へと向ける。
能力が発動すると、その意識は底無しの穴に吸い込まれるように落下していき、そして次の瞬間には、温かな光が差し込む、水中のような空間に漂っていた。
本来であれば海透き通り、星のような瞬きが漂うこの内海も、
この黒い靄のようなものは
その靄の量から見て、およそ全体の1割にも達していが、油断はできない。
まずは今の状況を対処しなければならない。
「
そう言うと、内海で瞬いていた光の明滅が激しくなる。
それと同時に頭の中に膨大な量の情報が詰め込まれていく。
この世界にまだ残っている蕃神と荒神の情報の中で、有用な者を手早く選択していく。
「現状で余裕のある神格50体と能力を共有。同時にその他の神格との、魔力、及び信仰力を共有」
途端、自身の中に莫大な量のエネルギーが流れ込んでくるのを感じる。やはり神の力というだけあって世界に影響を与えるほどの力を持っているということか。
眼を開き、仮面越しに大地を見下ろし、右手を大地に向ける。
すると、天空に巨大な魔方陣が空を覆いつくすように空を満たしていく。
「神格、ゼウス、アポロン、インドラ、セト、天照大御神、他蕃神の火神3柱、雷神2柱の権能を疑似使用。
魔力充填率を5%に固定。残りの魔力を世界崩壊の抑制に使用」
一時的に借り受けた神々の魔力を装填すると、
バチバチと直径50kmはあろう巨大な魔方陣から黒い稲妻が発生し始める。
「アイギス、他結界神による空間障壁を発動。炎神による炎熱操作を開始」
もう片方の手を大地の方へ翳すと、黒い波全体を覆うドーム状の透明な障壁で覆った。
これで準備が整った。
未だ意思を持たない黒い波はノアの結界にも構わず激突する。
「塵一つ残さず消えよーー『
結界内の巨大な魔法陣から途方もなく巨大な黒炎を発生させると、それを一瞬にして凝縮させ、10mにも満たない程度の大きさにサイズに縮小させると、下方へ向けて加速を始めた。
そのまま黒い波の中心地点に到達し、黒炎球は内包する莫大な魔力エネルギーを解放する。
黒炎球の到達地点を中心に半径50km程の範囲を黒い半球形ドームが覆った。
瞬間、ゴゥッ!!という音が響く。
それ程大きな音では無いにも関わらず、聴く者の本能を恐怖させ、背筋を凍りつかせるような寒気を与える音。
神同士での戦いですら使われる事のない大規模攻撃。
対星焼滅物理魔法・・・『
黒い半球形ドームは数秒程で消え去ったが後には焼けた地面が残るのみ。
ノアが黒炎球を放ってから、わずか1分以内の出来事である。
スローライフ×スピンオフ @togami922
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。スローライフ×スピンオフの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます