第3話 作戦会議
第三話
「ダメだよそんなこと!」
マガミがノアに対して大声で怒鳴りつける。
何事かと周りの人々も此方のほうを振り向いていた。
「このタイミングであの波の向こうに向かうなんて…...今は危険すぎるよ。皆で一緒に逃げよう?」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。すぐに終わらせてくるので」
「全然大丈夫じゃないよ!?やることってあの黒い波みたいなものをどうにかするって言うんでしょ!危険すぎるよ!」
どうにか宥めようとするも、マガミは頑固として引き留めようとする。
「安心してください、ちゃんと全部終わらせてここに帰ってきますから」
「で、でも...」
「マガミさん」
どうしても引き留めようとするマガミの方に、同じく話を聞いていた預言者がマガミの肩を置く。
「どうやら彼には策があるようですし大丈夫でしょう。それに私たちではこの状況を打破する術がありません。ここは彼を信じて任せてみましょう?」
「......わかった」
それを聞いてまだ納得いっていない様子だったが、しぶしぶと言った感じで引き下がる。
「ありがとうございます」
それをみて申し訳なく思いつつも、そう言ってマガミにお礼を言う。
「でも約束して」
「約束?」
「絶対...絶対無事に帰ってきてね」
マガミの目はまっすぐノアの目を見つめていた。
(これで約束を破ったら怒られるだけでは済まないでしょうね……)
しかし迷うことなく、その言葉に微笑を浮かべて頷く。
「勿論。必ず戻ってきますね」
そう言って辺りを見渡す。
教会の周りには、既に街の人々が避難するために集まってきていた。
「マガミさん、預言者さん達は避難してきた街の人達を結界内留めてください。あの黒い波も結界であればある程度の時間は防ぐことが可能です」
マガミと預言者は無言で頷く。
「それと、ヒマリさんもここに残ってください」
「え?」
ヒマリはきょとんとした様子で目を丸くしていた。
どうやら付いて行くつもりだったらしいが、今回は流石に危険すぎる。
それに、彼女にもやってもらいたいことがあった。
「確かにこの街の結界は非常に強力です。対魔・対物理においてこの世界の中でも非常に優れていますが、あの波と衝突した場合ではすぐに持たないでしょう」
『
それは命あるものに限った話ではなく、魔力等で作られた障壁ですらも浸食し、己が内に取り込んで最終的に壁を突破することだろう。
「えっ、そ、それじゃあここも危ないのでは...?」
マガミがそれを聞いて不安そうにしている。
「そうですね。そこでヒマリさん、あなたの出番です」
ノアは彼女の正体について掻い摘んで説明する。
彼女の種族ハルピュイアは食べたものを何でも魔力に変換する他、契約者の魔力を譲渡することもできる。
そして現在の彼女の体内には、日常で消費する以上に莫大な魔力が蓄えられている。
彼女がその魔力を障壁の保護に回せば、およそ2時間程度は保つことができるだろう。
後はその間に黒い波をどうにかすれば良い話である。
それを伝えると
「...…わかりました。私もここでお師匠様の帰りをお待ちしています」
そう言って了承してくれた。
ノアも頷き返し、早速元凶の元へ足を運ぼうとすると。
「待て」
一人の青年に呼び止められた。名を紅士郎と言ったか。
「悪いが元軍人として黙ってはいられないんでな。勝手について行くが、文句ねぇな?」
そう言って巨大な大剣を担いでみせる。
ノアが仮面越しにそれを「見た」ところ、恐らくは可変式────それも電撃砲に近い機能を有していると思われた。
そんな彼のその瞳は強い意志を持っていた。恐らく止めたとしても勝手についてくるだろう。
それを理解たようにノアは頷く。
「...…しかし良いのですか?蒼空鈴さんが良しとするとは思えませんが」
「あいつもこういうのに慣れてるんでな。ここの結界の維持を任せてきた」
確かに。彼女───蒼空鈴の力があればここの結界の維持力もより強固なものになるだろう。……しかし、彼を再び戦場に行くのをただ黙って見送るとは思えないが……いや、恐らく彼らにも何かしらのやりとりがあったのだろう。
そうして士郎の他について来る者も何人か現れた。
教会で住み込みで働いてる三人の魔法戦士の姉妹、喜羅國未紅、空未未来。
そして最後に筋骨隆々の壮年の男性、ノーマン中佐と彼が率いる部隊である。
各々が自身の武器を手に取り、それぞれの覚悟を持ってここに集まってきていた。しかしそれにも関わらずここで死ぬ気はない、という希望に満ちた眼をしていた。
ノアとしてはこれ以上犠牲者を増やすわけにはいかない……と思っていたが、彼らの意思を無駄にするわけにもいかず、なによりここに集まったメンバーは皆あの存在にある程度対抗できる力を持っていた。少なくとも無茶だけはしないだろうと判断し、ノアも参加することに了承した。
「では、簡単にですが作戦会議を始めます」
そう言うと改めて全員に向かい合い、指示を行う。
「まず、貴方たちはここで待機していてください」
開幕一番、はっきりとそれを口に出す。それを聞いて全員がは?と言いたげにこちらを見ていたが話を続ける。
「あの黒い波は、なにもかもを呑み込む穴のようなもの。触れるだけでも危険なものです。
ですが、それ自体は私がなんとかします。そして、貴方たちには「その後」の処理を任せたいと思います」
そこまで行った後で士郎が横槍を入れてくる。
士郎「その黒い奴には、お前が解決策を持っている───そう考えていいんだな?」
「はは。そうでなければ私は蛮勇か────ただの無謀者ですね」
「上等─────
お前の頼みは任された」
それで納得したように、士郎はそれ以降は黙り込む。
ノアも詳しく説明している余裕がないため、それぞれの役割を簡潔に伝えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「では、指示があるまで皆さんはそれぞれの配置に付いて待機していてください」
ノアはそう言うと、浮遊するように浮かび上がり、波の中心に向けて空へと飛び立ち、士郎も今の状況を俯瞰するために、真上に上昇した。
そうして残った、飛ぶことの出来ない他のメンバーも、「その後」という時に備えて、それぞれの持ち場で待機することになった。
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