第2話 世界を喰らう者
いつもと変わらない朝
いつもと変わらない景色
いつもとかわらない人々
そんな当たり前の営みに、突如としてそれは起こった。
ーーピシり、と嫌な音が世界に響き渡る。
見上げると、そこにはありえない光景が広がっていた。
天に亀裂が走っていたのである。
次第に天はひび割れていき、砕けた破片は雨のように大地に降り注ぐ。
そうして中心にぽっかりと空いた巨大な穴は、光すら吞み込む虚空を映していた。
「あ、あれは一体...?」
誰に向けて言ったわけでもない言葉を誰かが呟く。
恐らく、ただそうつぶやくことしかできなかったのだろう
街の人々らも、あまりの出来事に恐怖か、驚きか、困惑か、あるいは好奇心からか、一様にただただ立ち尽くし見上げることしかできなかった。
そうしていると
どろり、と穴の入り口から何かがこぼれ出てくる。
否。這い出てくる、といった表現が正しいのかもしれない。
霧のような、炎のような、液体のような深淵のように暗い不定形の『それ』は、地面と接触すると、液体のように、波紋のように世界に広がり始めた。
その現象の近くにいたある者は、走り逃げようとし、またある者は逃げきれないと判断して強固な防御魔法を発動し身を固めた。
しかし感情を、意思を感じない『それ』らは、そんなことすら無意味だと言わんばかりに、樹々も大地も、人も獣も、そして神をも、等しく不定形の体で呑み込み、捕食していった。
幸いにも夜の女王の教会は異形の波からは距離があり、未だ被害に遭っていなかった。しかしここもいずれ呑み込まれるのも時間の問題であることは明白だった。
「な…に……」
丘の上の教会で、マガミはその存在を見て根源的な恐怖を感じ取っていた。
あれは勝つや負ける、殺す殺されるといった次元ではない、一方的で圧倒的な「侵略者」であると本能が警告していたのだ。
「あれは……嫌な感じがしやがるな。お前ら!さっさと支度をしろ!」
「みなさんは速やかに避難の準備を!こちらで避難経路を用意します!」
偶然近くにいた預言書やシスターも表情に現れてはいなかったが、今起きているこの状況が非常に危険だと判断し、即時に街の人々へ警報と避難勧告を促し始めた。
「なんなんだよあれ!?」
「わっかんねーよ!俺に聞くな!」
「神よ……儂等はどうすればよいのですか……」
「一体どこに逃げ場があるっていうのよ!」
そうして慌てふためき、逃げ惑う者たちの中で、
ノアはただ冷静にその状況を眺めていた。
「世界の綻びに釣られて来ましたか…厄介ですね」
この場にいる彼だけがその存在を知っていた。
『それ』は命を喰らい
人を喰らい
神すらも喰らう
そうして物語という名のヴェールを容易く引き裂き終わりへと導く者。
世界を知らず、命を持たず、ただ本能のままに世界そのものを喰らい糧にする存在ーー
「『終焉之闇≪アポカリプス≫』……」
世界を喰らう者ーー『終焉之闇≪アポカリプス≫』がここに顕現した
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