スローライフ×スピンオフ
@togami922
第1話 ある日の歓迎会
ノアの朝は早い。
訂正しよう。
正確にはノアには睡眠は必要ないのだ。
彼の肉体は通常の人間と全くと言って良いほどに同じ見た目をしているが、その構成組織は人間の組織細胞ではない。全てが同一の細胞の集合体で、一つ一つの細胞が脳細胞であり、神経であり、筋肉なのだ。
故に、思考する演算細胞は持ち回りで休憩する為に睡眠は不要なのである。
この「夜の教会」に滞在するようになってからは、昼間は教会の子供達の先生としての教務を行う必要もできて、弟子である陽毬と付き合う為にも、雑事は滞りなく空いた時間で済ませるようにしているのだ。
今日もいつも通り家事を済ませ、昼に向けての支度をしようとした直後。
コンコン、と扉の方でノックする音が聞こえた。
それが誰であるかは予想はついているが、「どうぞ、お入りください」と変わらず扉の方に向けて返事をする。
「お、おはようございますお師匠様!」
そう言っておずおずと言った様子で入ってきたのはノアの一番弟子であるヒマリであった。向日葵のような可愛らしい笑顔で挨拶をする。
「おはようございます、今日も元気に挨拶できて偉いですね」
「ふぁ……♪そ、そんなことありましぇんよぉ……」
そう言ってよしよしとヒマリの頭を優しく撫でる。これもほぼ日課となっており、撫でられたヒマリは小動物のように気持ちよさそうに目を細め、嬉しそうにしている。尻尾があればぶんぶんと激しく振っていたかもしれない。
最近は大人の女性に憧れているのか、大人ぶった態度を取る事があるが、ノアの巧みなゴッドハンド(ナデナデ)にはヒマリも1人の少女と化してしまうのであった。
「ん……ああそういえば、今日はいつも来る時間より30分も早いですね?」
ヒマリを撫でながら、ふとそう思った事を呟く。
「ふにゃあ……ハッ、そうでした!」
撫でられて放心気味だったが思い出したように我に帰るヒマリ。
「えっと、実は今朝マガミさんがやってきて……」
どうやら話を聞くにどうやらこの教会の保護者的立場(?)にあるマガミがノアとヒマリの二人に用事があるらしく、すぐに食堂に来て欲しいとの事だった。
普段から忙しそうにしている彼女が、わざわざこうやって自分たちを呼び出すということはそこそこ大事な用事なのだろう、と推測する。
ただ、なんとなく集合場所が食堂という所に引っかかりを感じた。
水道が壊れたか食料に問題があったか、はたまた新レシピの考案に手伝ってもらいたいのか……推測の域は出ないが、どちらにせよ結論は既に出ていた。
「成程……わかりました。では早速食堂に行きましょうか。ヒマリさんはもう準備はできていますか?」
「だ、大丈夫です。何があっても良いように身支度はしっかり済ませました!」
ふんす、と意気込むヒマリ。
「いえ、別にそこまで気合を入れるほどの事ではないと…」
と、思いつつ苦笑いを浮かべる
「では早速行きましょうか、マガミさんを待たせてはいけませんし」
「はい!お師匠様!」
そう言うと、二人はマガミが待っているであろう教会の食堂へと向かうのだった。
ーーーーーーーーーーーーーー
「第一回、ノアさんとヒマリちゃんの歓迎会ー!」
扉を潜ると食堂には二桁以上の人が集まっており、卓には沢山の食事が並べられている。それを確認したと同時にぱんっ!とクラッカーの音が鳴り響く。そして二人の頭に向かってパラパラと落ちてくる色とりどりの紙屑達。
突然の出来事に普段なら直ぐに泣き出すヒマリも今回はぽかんと口を開けて呆然をしている。
「いやー二人とも突然ごめんね!」
と言って大人数の中から夜空色の髪をした美少女がこちらに歩み寄ってくる。
彼女こそこの場所に呼び出した主犯…もとい人物であるマガミだ。
「いえ、大丈夫ですよ。しかしこれは一体…」
ノアとしては大体の予想はついている(もとい既にネタバレはされている)が、念のためこの状況を聞いてみる。
「それは勿論、二人の歓迎会だよ!二人が来て一週間以上経ったのに、みんな色々と忙しいのもあって中々集まらなかったからねー」
それでみんなの時間が空いているタイミングで歓迎会を行おう、と。
しかしわざわざ自分達に内緒で進めなくても良かったのでは?と言うと
「それだとサプライズにならじゃん!」
と一蹴された。
因みにヒマリは目をパチパチさせた後次第に状況が理解できた様子で、目の前のご馳走を見るとぱあぁ、と顔を明るくしていた。
それを見ていたマガミも察したようで
「まあ長話もなんだし、早速みんなでご馳走をいただこう?」
マガミがそう言うと、待ってましたと言わんばかりにおー!という掛け声が部屋中に声が響き渡った。
・・・・
・・
・
「そういえばヒマリちゃんってさー」
「もっきゅもっきゅ…?は、はいなんですか…?」
「ノアさん?とはもうお付き合いしてるの?」
「はぇっ!?」
ぼんっ、と一気に顔が赤くなるヒマリ。
食事中は食べながら会話をしないように教えたのはノアだが、今回はそれが功を奏したようだ。食べたままだったら確実に喉に詰まらせていただろう。
「あっ、その反応だともしかしてまだだった?でも安心していいよ!ここには恋の悩みもズバッと解決してくれる頼れるおかーさんがここにいるからね!」
ドドヤ!と(無い)胸を張るマガミちゃん
「さあさあ、私にどんどん頼っていいからね!だからもっといろんなお話をきかせ」
「マガミさん、一人で勝手に推し進めるのは良く無いと思いますよ」
恋に悩む少女を見てテンションが上がり半分暴走気味だったマガミを一人の男性(?)がマガミを止めた。
この教会の神父である預言者である
「えー!なんdむぐぅ」
「(私の)マガミさんが大変失礼しました……ではこれで」
そういっていそいそと離れていく二人。去り際「いつでも相談しにきてねぇぇぇ」と叫んでいた気がするが気のせいだろう。
ノアはヒマリに別の料理を手渡して気を引かせつつそう思うのだった。
それ以外にも色んな人物から質問攻めに会った。
内容も
「ここにくる前にはどこで暮らしていたのか?」「好きな食べ物は何か?」
など、ありきたりなものばかりであるが、ノアはそれらを言葉を濁しつつ適当に返事を返して置いた。嘘を吐いて後々嘘がバレるのも面倒だからである。
この世界は信仰によって神が産まれる荒神の世界と、神が前提として存在する蕃神の世界が融合した世界である。
世界の融合よって二つの勢力が争いあっているのが現状だが、その中でも比較的安全な場所がこの「夜の女神の教会」である。
便宜上ノアとヒマリは蕃神側の世界から来た人間と神としてやって来たと周りには伝えているが、実際は異なる。
世界という物語の情報(アカシックレコード)……並行世界を含むそれらの物語を、あらゆる時空から隔絶された空間にある「図書館」で管理し、保管し、修繕する存在たち。それがノアたちである。
そんな異端でもあるこの二人が、この世界にやってきた理由は、2つの世界の創造主である人(?)物から、この非常に不安定な世界をどうにかして欲しい、といって救援を受けたからである。
原因の半分以上は彼女の自業自得なのだが、救援を求めて来た以上はノア達も動く必要があった。
その結果として既にいくつかの世界は崩壊する前に修繕は完了した。
崩壊しかけた世界も能力の一部である「もう一つの世界を創造」をすることによって蕃神界の人物たちを移住させることで難を逃れている。
しかし一息付いたところで、世界の補修で自身の力の大半を使い切っていた。その為休暇と次に直す世界の視察も兼ねて、ヒマリと共にこの世界にやってきたのだ。
……そんな内容を馬鹿正直に教えられるわけもなく、知られたとしても頭がおかしい人に思われるだけだと理解しているため、らヒマリの言動にも注意しながらその場を乗りきるノア。
その日も色んな事がありつつも、そんなこんなで二人はみんなからの歓迎会を満喫したのだった
ーーしかし、そんな緩やかな休暇は唐突に終わる事になる
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