3「ヨルム・クウゼルは心に刻む」
キャロ・テンリ。
学園の中等部で同じクラスになった女の子だ。僕は初等部からそのまま上がってきたけど、彼女は珍しい転入生だった。引っ越してきたのか、なにか事情があって学園に通っていなかったのか。それはわからない。ただ希少な光属性の魔力を持っていて、魔法も飛び抜けて強かった。中等部入ってすぐの能力試験で学年トップを叩き出した優等生だ。
正直羨ましかった。僕は冒険者になりたいんだけど、試験の成績はとてもじゃないけどいいとは言えない。ぶっちゃけ悪かった。
薄々気付いていた。僕は、魔力が少ない。身体の中に魔力があるというけれど、その感覚がいまいちわからないでいた。そしてそんなのは僕だけらしい。
このままでは冒険者になれないかもしれない。だから、魔力の豊富な彼女のことがとても羨ましかったんだ。
ただ彼女はいつも一人だった。最初は、転入生だから友だちがいないと思っていたけど……どうも彼女の方が人を避けている印象だ。なんでも自分は古代人だからとよくわからないことを言っているらしく……次第に積極的に近付こうとする人が減っていった。
だけどやっぱり僕は気になっていた。その頃には羨ましいよりも、どうしたらそんなふうに魔法が使えるのか教わってみたいと思うようになっていた。
それに古代人。普通そんな変な言い訳を使って人を避けるだろうか? クールな孤高の天才である彼女が、そんな嘘を言う理由は? もしかして本当のことだったりして? なんて考えたりもした。
そんな風にずっと気になっていた、ある日。そう、運命の日だ。
なんと彼女の方から僕に話しかけてきた。
「ヨルム・クウゼル君……だよね」
「え!? う、うん、そうだけど」
後ろから声をかけられて振り返ると、じっとこっちを凝視するキャロが立っていて思わず驚いた。
何故なら目つきが尋常じゃなかったから。目を見開き力強い眼で僕の身体をなめ回すように見るのだ。そこにいつものクールな雰囲気はまったくなくて、思わず身構えてしまった。
「その、君の魔力なんだが――!?」
彼女は飛びかかってきそうな勢いで駆け寄ってきて――突然ガクンと膝をつき、目の前で転んだ。
「――だ……だ、大丈夫?」
一瞬ぽかんとしてしまったけど、僕は慌てて駆け寄る。そして彼女の身体を起こそうとするけど、どうにも様子がおかしい。
「な、なに、これ……身体、力入らない……うそ……?」
「えっと……これは医務室に連れて行った方がいいのかな」
理由はわからないけど力が入らなくて起き上がれなくなってしまったらしい。
本当によくわからない状況だったけれど、とにかく救助だ。冒険者を目指すなら女の子の一人くらい抱えて運べなければ。そう思っていた僕は、彼女を抱え上げようと背中に手を添えて腕を足に潜らせる。その時だ。
僕の目に、キャロの美しいふとももが飛び込んできた。
――ドクンッ――
すでに僕は彼女を抱きかかえるためにそのふとももに触れていた。
なにがなんだかわからないけどドキドキして頭が真っ白になる。胸の鼓動が速くなってクラクラする。それでも、手に感じる柔らかさだけはよく覚えていた。
「はぅ……あぁ、魔力が……溢れる! この、魔力、やっぱり――!!」
「え……えぇぇ!?」
突然彼女の身体が光り出して我に返る。慌てて彼女の顔を見ると、
「あぁ……あははっ……やだ、涙が出てきちゃった。ふふ、あはは……」
キャロはすごく穏やかな笑顔で、だけど涙を流していた。
そんな彼女の顔を間近で見て、僕はそのまま動けなくなってしまった。
――これが、初めてレグスセンスを使った瞬間であり、初めてキャロが僕の魔力で安らいだ顔を見せた瞬間でもあった。
いまの時代、僕にしか見せることのない穏やかな顔。
だから誰にも言わない。これは二人だけの秘密だ。
そして、
「あ~……ごめんね、突然。でもこんな風に泣いて、笑ったの……久しぶりっていうか、初めてっていうか」
「久しぶり? 初めて……?」
「あ、ううん。とにかくその……ふふっ、ありがとね」
この時、刻まれた。
僕だけが見ることのできるこの笑顔を、もっと見たい。
そんな想いが、僕の心の奥深くに。
どうしようもなく惹かれてしまったんだ。
初めて彼女に触れたこの瞬間から――僕はキャロの笑顔の虜になっていた。
……そしてもしかしたら、その美しいふとももにも。
君の魔力とレグスセンス 完
君の魔力とレグスセンス 告井 凪 @nagi_schier
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