第4話 この期に及んで、まさかの

「PCR検査をして頂きます!」


 PCR検査......


 あの恐怖の綿棒!

 看護師時代、あれを患者の鼻の奥までグリグリするのも痛々しくて申し訳無く感じて苦痛だった、アレを!


 有無を言わさず、看護師は私の左鼻にあの綿棒をグイグイと置くまで入れてきて、鼻もだが、左眼まで痛くなって、涙目になった。

 どうして、私が、こんなロシアンルーレット的な事を、この陣痛が襲って来て、非常に辛い状態の時にさせられなくてはならないのだろう?


 これで、もしも、3/50ほどの確率の陽性になりでもしたら......


「陽性です!」


 まさか、その確率に、妊婦の私が引っかかるなんて!

 こんな健康体そのものなのに!


 聡も濃厚接触者として、どう見ても健康体だが必然的にPCR検査をすると、3/50の確率だというのに、2人連続で、まさかの陽性だった!


 客観的にどう見ても健康なはずの私達2人は、防護服のスタッフ達の乗る救急車2台で、揃って白十字病院へ救急搬送された。

 白十字病院に到着すると、私と聡は、子宮口全開大になるまで、ベッド2つ用意された広い殺風景な部屋に隔離され、窓ガラス越しには、沢山の救急スタッフがいつでも出頭出来るよう防護服姿で待機していた。


 私の陣痛をモニターでチェックしていた医師達の1人が、完全防御した姿で現れ、慎重に内診をした時に丁度、子宮口全開大となった。

 防護服姿の医師と看護師に見守られながら、初産の私は、少し時間はかかったがスムーズに出産し、元気な産声と共に、無事に玉のような美しい女の子と対面出来た。

 玉のような形状のコロロウイルスが流行っている時期に、玉のような美しい女の子が生まれたから、珠子たまこと名付けた。

 

「今は、健康な赤ちゃんに見えますが、胎内感染していた可能性も有りますので、ご主人と共に3名とも隔離させて頂きます」


 胎内感染......って?


 そもそも、私、運悪く偽の陽性綿棒に当たっただけで、コロロウイルスに感染したわけでも何でも無くて、極めて健康体だというのに......


 病院のスタッフ全員が揃って防護服で接してくる事からして、大袈裟に感じているのだが、ロシアンルーレットの犠牲者に対し、必ずそのように演じる必要に迫られての事だろうか?


 自分や聡が陽性で、まさかの生まれたての子まで胎内感染を疑われている状態で、隔離なんて、たいそう仰々しい響きの処遇になってしまった!

 こんな事が、よもや、出産を控えた時期から産後の私に振りかかるなんて、夢にも思ってなかった!


 こんな愛らしい外見をして生まれて来た無症状の新生児だというのに、生まれながらに珠子は、気の毒にもコロナ感染者かも知れないレッテルを貼られてしまった!


 でも、まあ、そのおかげで、隔離とはいっても、ある意味ゆるゆるで、特等室みたいな感じの広い個室に、聡用の簡易ベッドとベビーベッドを用意され、私と聡と赤ちゃんの新生活が始まった!


 個室には、ホテルのようにバス、トイレ、洗面台が別空間に有りゆったり使用できて、食事は時間になると暖かくて美味しい物が運ばれ、冷蔵庫にはアルコールは無いが、色んな飲み物が用意され、チェック表で毎日減った分を補充してくれる。

 洗濯物も毎日3人分の新しい衣類が用意され、何不自由無く、親子3人水入らずで新生活を始められ、むしろ、幸運なくらいに思われた。


 パソコンやテレビも設置されているから、暇な時間も育児情報収集したり動画を見て過ごせ、ゆったりとした気持ちでストレスを感じさせず、窓からの景色が思ったより良く、時間の流れも感じられるのも有り難かった。


 幸い珠子の鼻の穴は、あの綿棒には小さ過ぎて、市販品のベビー綿棒で採取しているおかげで、毎回陽性判定から免れる事が出来ている!


 ゆったりとした時の流れの中、私と聡が常に揃っている状態で、珠子は、よく眠りよく泣き、健康的に成長していった。

 

 あのロシアンルーレット的な偽の陽性綿棒によって、最悪の出産になるかと懸念していたわりには、親子3人一緒ずっと同室にいられて、上げ膳据え膳で身体が疲れる事無く、ストレスや時間に追われる心配も無く最高の産後生活の始まりになった!


 難をひとつだけ言わせてもらうとしたら、監視カメラが有って、トイレとバスルーム以外は、プライバシーが無い事くらい。

 

 まあ、そんな必要などは無いとは思いつつも、万が一、私達の身に何か有った時には、迅速に救出するよう動いてくれると信じている。

 元々、私と聡は、そこまでスキンシップ多いわけじゃないから、少しくらい節度を保つ程度で我慢出来ている。


 看護師時代から、謎多き人騒がせなコロロウィルスだったけど、私達にとっては、幸運に働いてくれた!


 楽観的過ぎるかも知れないけど、これからもきっと私達3人一緒だったら、何でも乗り越えられるはず!


 コロロウイルスが蔓延していると言われている時代、見えない敵は、またどこで、どんな形で私達を巻き込んで来るか分からないけど、決して屈する事無く、家族3人で力合わせて、これからもコロロ禍の厳しい世の中をしっかりと強く生き抜こう!


  【 完 】

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一時はどうなる事かと ゆりえる @yurieru

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