人生には、無意味な嘘なんてない

 人生で、嘘をついたことがない人など存在するのだろうか、否、いないだろう。人間関係を円滑にやり過ごすため、大抵の人は些細な嘘をついて日々を過ごしている。それは自然なことであり、意識すらしていないこともままあるだろう。
 ゆえに、「自分がいままでいくつ嘘をついて生きてきたのか」を意識的に数えている人はほとんどいないのではないだろうか。本作はひょんなことから「嘘をついた回数」を数える羽目になってしまった主人公の人生を辿る物語である。

 主人公はごくごく普通の人間なので、「嘘を100回つくと死ぬ」という悪魔の言葉におびえつつも、時には嘘をつくことで人生を生きやすくしようと努める。むろん人間関係を築くうえで、嘘をつかないで生きることは難しい。
100回に近づくごとに死の恐怖におびえる主人公、それでもつかなければならない嘘もある。その狭間で苦悩しながら生きる彼は、「人は嘘をつくことに意識的になれば、どんな人生を送ることになるのか」という一種のケーススタディのように感じられる。人間は嘘をつく生き物だという自覚が我々読み手にあるからこそ、彼の感情に共感し、選択にはらはらし、結末を見届けたくなる。

 主人公がつく嘘に、無意味なものはないのだ。全てが意味を持ち、彼が生きる糧となっている。「100回以上嘘をつけない」物語だが、かえって嘘の必要性を感じさせる物語であると感じた。

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