ビン詰めの真実

高黄森哉

ピピ

 ピピというのは、考古学者のサミタイ人である。サミタイ人は紫のよく伸びる皮膚とタコの出水孔のような器官がある以外は人に似ている。それもそのはず、サミタイ人はホモサピエンスの成れの果てであり、今はキリスト誕生から五億年後の未来である。

 ピピの隣には、ポポがいた。彼らは恋人であった。彼らは性別を持たない、両性生物なので、人類の我々からすると両性愛に見える。檻の中の動物にとってもそうだった。

 檻の中の動物は言った。


『もうやめてください。これ以上、食べたくはありません』

「君は、今、不健康な状態にある」

『これ以上食べたら、私の身体がおかしくなってしまいます』

「しかし、痩せすぎているのは確かなのだ」


 ピピは古代語を使い檻の中の動物と話す。ポポは生物史の専門家であるため、理解できないまま横でその様子を観察している。


「餌が欲しいのかな」

「このサンプルは、拒否している」

「体形的に適正じゃないはずだが。冷凍保存の悪影響で、神経系に異常をきたしたのかもしれない。可哀そうに」

「そうかい。伝えておくよ。いいかい、君が苦しい思いをしているのは、それは神経系の異常が原因だそうだ。専門家が言っているから間違いない。誓ってもいいよ」

『私の時代ではこの体形が普通なんです。おやめください』

「嘘、言っても駄目だからね。君を保存する義務が我々にはあるのだから」


 ポポは管のようなものを持ち、その生物の口に入れた。中からは流動食が流れ、動物の口から溢れそうな程、充填されていく。太った動物のお腹が膨れていった。


 ポポは、日に日に順調に太っていく動物を見て満足していた。彼は図鑑でしか知らない絶滅動物を健康な姿で、動いているところを見ることができたのだから、それはそれは満足なのであった。

 彼は裏の部屋に保存してある、たった一体の古代人類の標本を見に行く。動物がどれだけ近づけたのかを確認するためだ。

 その標本は、ホルマリン漬けだった。水分を含んで、面積が二倍にも三倍にも膨らんでいる。肌やら髪の毛の色は脱色し、腹からは腸が出て、眼は見開かれている。まるで土左衛門だった。


 ポポはどうしたら、このサンプルに近づけるのか考えていた。大きなガラス瓶の曲面に、ポポの紫の巨大な目のある顔が、引き延ばされて太っている。動物を太らせる脱色し脱腸させる、沢山の器具や装置のアイデアで濡れた大きな目は、―――――― 引き延ばされて肥満だ。

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ビン詰めの真実 高黄森哉 @kamikawa2001

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