個性豊かな幻獣図鑑

P38 セト

・種族

　神、邪神

・出典

　エジプト神話

・概要

　エジプト神話に登場する砂漠と戦争の神。ヘリオポリス創世神話に関わる九柱の神

　【ヘリオポリス九柱神】の一柱。ステク、セウテフ、スティとも呼ばれている。

　大地神【ゲブ】と天空神【ヌト】の間に生まれた神であり、兄に冥界神【オシリ

　ス】、姉に豊穣神【イシス】、妹に葬祭神【ネフティス】を持っている。妹神のネフ

　ティスは配偶者でもある。曲がった長い鼻面、四角い耳、先の分かれた尾を持つ男

　性の姿をしている。頭の動物についてはツチブタ、ジャッカル、ロバ、馬等様々な

　説があるが、いずれとも特徴が完全に一致はしていない為、その正体は未だ謎に包

　まれている。その為、セトの頭の動物については「謎の動物」、「セト・アニマル」

　と呼ばれている。粗暴な性格で砂嵐を引き起こす戦争神だが、その武力故に軍隊の

　守護者として信仰を集めた。また、キャラバンの守護者ともされている。更に、セ

　トはエジプト神話の神々の中で唯一混沌の権化たる【アぺプ】から太陽神【ラー】

　の船を守る事の出来る存在、即ちアぺプの天敵とされている為、英雄的な神として

　讃えられる事もある。

　初期のセトは前述したように粗暴ではある一方、キャラバンや軍隊の守護者、ラー

　をアぺプの脅威から守る英雄とされ、人々から信仰を集めていた。その信仰は次第

　に甥である天空神【ホルス】と取って代わる程広がって行き、やがてナイル川下流

　部の下エジプトの王を後援・象徴する神として大いに崇められるようになった。だ

　が、時が経つに連れてその信仰は兄オシリスへと移っていった。オシリスが王の復

　活に関わる神としてその重要性を増していったからである。その為、セトはオシリ

　スとは対照的に悪役を背負わされ、一気に邪神へと転落した。その結果、彼は王位

　を継いだ兄オシリスを妬み、遂には殺すに至った。

　セトはオシリスを解体して14のパーツにすると、エジプト中にばら撒いた。だ

　が、殆どのパーツは配偶者イシスによって発見・回収され、妹ネフティス、養子に

　してミイラ作りの神【アヌビス】、知恵や時の神【トート】等の協力によってオシ

　リスは復活した。しかし、オシリスの肉体は男根のみが魚に食われてしまったが故

　に不完全であり、冥界から出る事が出来なくなってしまった。止む無くオシリス

　は、冥界の神として蘇る事にした。その後、セトはオシリスの息子ホルスも手にか

　けたが、トートの手によって復活した。成長したホルスはセトへの復讐を誓い、彼

　と宿敵関係となった。戦いの末にセトはホルスに敗北し、片足と睾丸を失った。こ

　れによってホルスがオシリスの跡を継ぐ王となる事が確定し、地上の王権を父より

　譲位された。これ以来、ファラオは「ホルスの化身」と呼称されるようになった。

　この神話によってセトは長らくエジプトの嫌われ者となったが、【エジプト第19王

　朝】になると彼の名を冠した【ラムセス家】のファラオ【セティ1世】が即位した

　のをきっかけに、宗教上の復権を果たした。「セティ」とは、「セト神による君主」

　という意味で、これはセトへの信仰を表している。また、「古代エジプト最大のフ

　ァラオ」の異名を持つ第19王朝二代目ファラオの【ラムセス2世】は、セトから弓

　の使い方を教えられるレリーフや、ホルスとセトに戴冠式で祝福を受ける場面を表

　したレリーフを残した。これによってセトは【王の武器の主人】の称号を手にし、

　ファラオに武術を教える神となった。しかし、戦争に関連した事が主であるが故に

　民間ではあまり人気が回復せず、王家の信仰する神に留まった。それでも、上エジ

　プトでは根強く信仰された。

　セトはレタスが好物であり、それ故に性欲の神ともされた。レタスの茎から出る白

　い液体が精液の元とされており、それが理由だと考えられる。また、セトはイシス

　による報復の結果ホルスの精液を飲み、妊娠したとされている。その為、彼は両性

　具有の神とも考えられている。

　セトは他神話の存在と同一視されることがある。ウリガット神話の戦いと嵐の神

　【バアル・ゼブル】(キリスト教や悪魔学における堕天使ベルゼブブ)、ギリシャ神

　話の巨人【テュポーン】等。また、クトゥルフ神話においてセトは外なる神のメッ

　センジャー【ニャルラトホテプ】や風の旧支配者【ハスター】の化身とされてい

　る。因みに、セトの兄オシリスやその息子ホルスを蘇らせた知恵神トートもニャル

　ラトホテプの化身とされている。その場合、化身が化身の邪魔をしていると言う、

　何とも不思議な構図となる。