三崎大島を出た船が汽笛を鳴らしながら本島に着いた

この船を使うのは島に観光に行った人たちが帰ってくるために使うことが多いせいか船着き場にはおかえりなさいと書かれたものが多い


「ただ来ただけなんだよな」


看板の群れに話しかける

そしてこれから最低三年間は住む薊の家へと歩を進める

家や学校、生活に必要な場所は以前来た時に把握しているのでその歩みに迷いはなかった

この町は「三崎町みさきまち」薊の島と同じ名前の町

山と海に囲まれた小さな町、三崎大島と同じように観光や漁がおこなわれている町であまり島の外に出たという感覚はあまりないが、島を外から見ているという景色だけが決定的に違うということ


「あそこについさっきまでいたんだと思うと変な感覚だけどこれが当たり前になっていくんだろうな」


そうつぶやき再び新しい家へと向かい始める

二回目とはいえ歩く道はほぼ初めてでアスファルトの色や横を流れる側溝、生垣や表札どれも見慣れないものの情報量が多すぎて辺りを見回しながら歩くのが止められない

そしてかろうじて見たことがある場所を頼りに家にたどり着いた


「本当にこんな家じゃなくてよかったんだけどな」


薊が住む家は古い平屋の戸建て、それだけならまだしもたった一人で住むにしては大きすぎる家だった

ポケットから鍵を出して扉を開けて玄関に荷物を置きそのまま座り込む


「もう島じゃないんだな...」


見慣れない間取りに天井、柱の傷や家の匂いすべてが今までと違う


「さて、荷物を片付けるか」


家のに入っていくと玄関の真正面に大きな和室、左手には縁側、右手には寝室、和室の奥にはダイニングとキッチンがありそこから風呂やトイレとある


「キッチンと風呂のスペースがある家でよかったんだよなぁ、こんな広い家一人じゃ使いきれないって」


ぶつくさと独り言を言いながら薊の部屋として使おうとしている寝室の戸を開けると布団がきれいにおいてあり、奥には段ボールが二つ


(先に送った荷物もう届いてたのか)


その布団を跨ぎ持ってきた荷物を置いて予定通りに布団に横になる


「こんなことしてる場合じゃねえ、もう三日もすれば学校なんだよ、せめてその支度だけでもしないと」


薊は事前に送っていた段ボールの封を開けこれから生活できるような準備を始めた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

七つの御先、人となる りょうすけ @stella-lay

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ