第0話‐3
~ごめんね、お兄ちゃん…~
その言葉が頭の中で反芻(はんすう)される。何に対しての謝罪なのか、俺には判らなかった。過労で気を失ったのだと自分で理解して目を開ける…?
真っ暗闇に体が包まれている。いや、まるで体がないみたいに何もない。これでは目を開けていないのと同じじゃないか。文字通りの「無」に包まれていることに多少なりにも恐怖を感じる。
怖い。その感情に呑まれそうになったその時、微かすかに光を感じた。ふわふわと小さく浮かぶ消えそうな炎。近づこうとすると怯えたように去っていく。
「あっ、ちょっ…」
急いで追いかけようとするも、僕の足がないことに気づく。
「こんな状態じゃ、走ることもできないよ…」
するとあの弱弱しい炎が、大勢の仲間を連れて自分の周りを囲い始める。ほのかに温かさを感じる。体がないのにどうして、と思い下にいる炎たちに目を向けると、
「…っ‼体が、ある‼」
奇跡か、それとも幻覚だったか、気づけば首から下が元通りになっていた。これなら自由に動くことができる。しかし今、自分の体は宙に浮いている。それにどこに行けばいいのかわからないし、どうやってここから出るかもわかったもんじゃない。あたりを見渡してみると、炎の光でよく見えなかったが、うっすらと光の道ができていた。でも、動くことが…
~念じてみて、『動け』ってね~
突然脳内に聞き覚えのない女性の声が流れた。念じろって言われてもねえ。そんな、信じたものが救われる様な理論を立てられてもねぇ。
「でもまぁ、やってみないことには始まらないか」
動け、動け、動け‼
少し体が前に動く。マジか。そのままもっと動けと念じ続ける。するととんでもない勢いで吹き飛び壁らしきものにぶつかる。こんな空間にも壁があったなんて。それに調節も必要とはな…
「このまま壁沿いに行けば何かにつくかな…」
本来のルートとは大きく逸れた正に抜け道を通る。長い時間飛び続けていると、お城の様な建物に着いた。正に荘厳と不気味を兼ね備えたかのような立派な城だった。
白のドアが一斉に開く。その瞬間、謎の威圧により体がいうことを聞かなくなる。この空間に入った時と同じ恐怖に体が包まれる。震えが止まらなくなる。この恐怖は初めて魔物にあった時のものと同じだと理解した。死の恐怖。恐怖で叫びだしそうになる。
「早く城へお入りなさいな、さもないとほんとに死ぬわよ」
あの時の女性の声だった。その声を聞いた途端、体の震えが収まった。恐る恐る城へと入る。浮いて向かうのもよかったけど、それじゃあ無作法かと思い、歩いて浮かうことにしたが、
「すんごい広い…遠い…」
一時間くらい歩き続けているが、まったくと言っていいほど進展がない。同じおころをグルグル回っているだけのように思える。早く上に行く階段を探さないといけないのに。…あれ?
「なんで上なんだ?」
確かに上からだと入ってきた敵が解るが対処法が他に無いわけでもなかろう。というより地下のほうが安全なのではないか?ということで階段を探すこと約一時間。
「何もないじゃん。どうすりゃいいんだよ(泣)」
だめだ、もう壊そう。そうしよう。全力で地面に一発入れる。すると地面は思いの外簡単に壊れた。落ちても体を痛めぬように浮いて少し落下速度を遅くする。着地する瞬間、窓から外が見えた。そこには、見慣れない光景が広がっていた。空を飛ぶ鉄の鳥、ものすごい勢いで動く鉄塊、浮かび上がる半透明の板。思わずその景色に目を奪われる。
「どうだい?これが本来のこの世界の景色だよ」
「あなたは?」
「私は…私はフレア。ここ『冥界』のただ一人の住人にして、“前の”世界を知る者よ」
廻るマリオネット ―昏く輝く氷の章―(休止中) コタツおんざ蜜柑 @kotatsu05715884
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