第0話‐2

 あれから数日経った。幸い、ここは島の一端だったようで、近くに海があり食糧や水には困らなかった。しかし植物は何一つ残ってなく、岸辺に沿って歩かないといつしか餓死してしまいそうだ。


 気が付いてから約一月経ち、自力で取れていた食糧も尽きかけてたある日、僕はふとあるものを目にした。廃墟となった町である。所々に死体が転がっていてあまりいい気分にさせるものではなかった。だがどの死体も強烈な死臭を放っていた。死亡直後特有のものだったのだ。明らかに一か月も死体が放置されていたものではない。更に、僕の目覚めた場所からさほど離れてはいなかったので僕的には腑に落ちなかった。


 足りていなかった服などを廃墟と化した家からもらっていくと少し罪悪感を感じてしまう。それでも、生きていくために必要なことなので僕は衣服等を貰っていった。犬に死体が食われていくのをただ待つよりかは埋葬してあげようという考えの下で、丸二日かけて死体を埋葬した。


 「せめて次の生では平穏な暮らしが送れることを願って…」


 この廃墟では色々な情報を得れた。


 まず一つ目は、食糧の分布。確かに農作物が沢山ある場所を見つけることができたので、この情報は使える。二つ目は、周辺の魔物の生態。弱点や行動などが書かれていたが、ドラゴンとか倒せないだろ。危険度?とかいうのも書かれていたが正直、字がぼやけていてあまり理解ができなかった。とりあえず猪の魔獣を倒すことに専念しよう。うん。


 三つ目は近くの町について。このまま海沿いに歩いていけば「零れ者の里」なる所に辿り着けるようだ。しかしドラゴンの巣を通る必要があるので、そこの対策を考えなければ。ぶつぶつと独り言を呟きながら対策を練っていると、ゴツンと頭を建物にぶつけた。この建物は、いやコレって…


 「こんなところに建物ってあったっけ?」


 もしあったとしたら見落とすことはなかった。それほどまでに大きかったのだ。まるでロンドンの時計塔の様な…


 突然、僕の記憶にノイズが走る。


 「グウッ…ッガアァァァッァアアア!」


 脳に激痛が走る。痛みでその場に崩れ落ちてしまう。考えを止めると痛みが徐々に引いていく。少し痛みが残りながらも眼前の建物の中に入っていく。


 「うわぁ…すごぉ…」


 痛みを一瞬忘れてしまうほど荘厳な光景に目を奪われてしまう。あまりにギラギラしている武器庫を見ると目が回ってしまうのに今回ばかりはつい見とれてしまった。いろいろ武具を物色してみる。各武具に名前がついているのだが、口に出すのは少し恥ずかしい。黒の選抜大剣(ジャッジメントブレード)、黄昏金槍(アルカディアス)、豪咆(クライオネット)ライオネル、救世の王剣(メシア)等々。痛々しいったらありゃしない。


そんなこんなで最上階と思われる階に着いた。このフロアには何もなかった。いや、正確には剣が中央に二本刺さっているのだが、周りの風景と同化して何もないと錯覚させていたのだ。剣に近づくと後ろに子供がいた。まだ若い、しかし重傷を負っていた。


 「酷い…なんでこんなことに…」


  脳内によぎる死という文字。見ればわかる、出血多量でもうじき死ぬ。そうとわかっていてもこの子を助けたい。目の前で命が失われるのだけはどうしても許容できなかったんだなと今となっては思う。


 「大丈夫だ!今薬を探してくるからな、どこかに薬があるはずだッ…」


 塔の外に出て一生懸命探すも薬草の一つも見つからない。それもそうだ、ここは荒野の真ん中なのだから。今度は廃墟の中を探してみる。運の良いことにどの民家からも薬が手に入った。僕は持てるだけかき集めて塔の最上階を目指した。少年の意識は消えかかっていたので最早一刻の猶予もない。


 様々な色の薬があったが、そんなことを無視して飲ませ続けた。少しずつ傷は塞がってきてはいるが意識は戻らない。恐らく出血多過だったのだ。外面的な傷は癒えるが血は増えない、それこそ増血剤が必要だがこんな廃墟の中、そんな物があるはずもなかった。


 そんな事を考えているうちに夕方になった。僕の腹の虫が鳴る。お腹が空いた。しかし目の前には今にも死にそうな少年、持っている食糧はあと1人分のみ。ならば…


 「口を開けられる?ご飯にしよっか」


 そう言って少年の顔を持ち上げると彼の半開きになった目が合った。その瞬間、腑を引っ張られる様な鋭い痛みとともに意識が暗い闇に飲み込まれていく…


 「…ごめんね、お兄ちゃん…」


 待って、それはどういう…?


 彼の言葉を引き金に僕の意識は完全に外界からの情報を隔絶した。

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