楽園の妖精姫 おまけ
フェレティングが戦友たちのもとへと駆けて行く後ろ姿を見送りながら、
茜色の髪の青年がほぅっと息を吐いた。
「やれやれ、純粋な人ほど他人は赦せても、自分のことは赦せないものだね」
「それはあなたのことですか?」
苦笑しながら真紅の髪の少年。
「先輩もそろそろ自分を赦して下さい。
じゃないといつまでもエルネストさんが報われませんよ」
揶揄うような響きに、クラウディオが渋い顔をする。
「エリィは僕がどうあっても受け容れてくれるし、一緒にいられるだけで幸せだよ?」
「それはご馳走様。
……それでも、僕はあなた自身に自分を赦してほしいな」
ヴィゴーレがまっすぐな瞳でクラウディオを見る。
「君こそ、他人を赦してばかりだろう。
たまには自分のために怒ったり嘆いたりすればいいのに」
「僕のために怒ったり嘆いたりしてくれる人はちゃんといるので」
「……お互い様だね」
思わず顔を見合わせてくすくす笑う。
自分たちはなぜか顔だけでなく、こういうところも似通っている。
自分の事はどうしても好きになれないし、赦す気にもなれないところ……
そして、そんな自分の代わりに自分を愛して大切にしてくれる人がいるところ。
更に言うなら、そうやって愛されている自分の事は、何とか赦せるし愛せるような気がするところまで。
「こら、白薔薇くんはいつまで笑ってるのかな?
そろそろ後片付けをしないと。
また次のお客さんが来るぞ」
いつの間に現れたのか、長身の青年がクラウディオを背後から抱きしめて言った。
「ディディも長居してないでさっさと戻るぞ。
どうせまた何か出すはめになるんだから、今のうちに仕込みをしておかないと」
「はいはい、エリィはせっかちさんだね」
仲睦まじい様子を見せつけられ、ヴィゴーレは苦笑しながらも嬉しそうだ。
「ごちそうさま、それじゃ僕はお先に失礼しますね。
こちらは館にさげておきますよ?」
ガーデンテーブルに置かれたままの食器類を持つと館に向かって踵を返した。
「やれやれ、それじゃ僕たちも行きますか」
「……もう少しだけ、ここにいても良かろう」
「……もしかして、妬いた?」
「やかましい」
二人の影が一つになって、朝陽の輝く中、ただ小鳥のさえずりだけが響き渡った。
月蝕の花園 歌川ピロシキ @PiroshikiUtagawa
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