その4 クロス・ロード

 

 やがて時は過ぎ。

 私と愛梨は別々の大学を選び、社会人となり、離れ離れになった。

 そしてさらに数年が経過し――



 私は結婚した。

 相手は真面目で素直で明るい、眼鏡の似合う普通のサラリーマン。

 世間一般でいうところのイケメンではないけれど、見た目も性格も滅茶苦茶いい奴。

 まさしく私の推しの集大成といった感じの旦那と一緒になり、子供にも恵まれた。



 一方で、愛梨はといえば――

 やはりこっちも、推しの集大成とも言える男と何度も付き合っては、散々酷い目に遭わされた挙句一方的に捨てられるの繰り返し。

 イケメンで影があって人嫌いで、それでいて中身が硝子のように脆いキャラ。

 そういう男はアニメや漫画では魅力的でも、現実に置き換えるとモラハラDVヒモ男にしかならないんじゃないか。愛梨の男性遍歴を考えるたび、そう思う。

 今では一人男の子を抱えながら、必死に働くシングルマザーだ。ある意味すごく強い女だなと思う。



「でも私、思うのよ~

 どんだけ酷い男につかまっても、恵梨の旦那みたいな男を魅力的に思うことだけはないだろうなって」


 久しぶりに実家に帰った私は、地元の喫茶店で愛梨と再会していた。お互いの子供を連れて。

 愛梨は変わることなく、私の旦那にさえ憎まれ口を叩いてくる。

 ほんのちょっとこめかみを引きつらせた私に、彼女は笑った。


「だから安心して?

 旦那さんを誘うことだけはないから♪」

「当たり前でしょ」


 その後もお互い、子育てや仕事の話で盛り上がる私たち。

 しかし話題はやがて必然的に、現在の推しの話になっていく。


「だけど最近、こうも思うの。

 恵梨が好きそうな、真面目で素直な普通のキャラも、結構可愛くてイイんじゃないかって。

 勿論、イケメンに限るけど~」


 あぁ。このトシになって、愛梨もようやく分かるようになってきたか。

 普通が一番幸せだということに。

 ――でも。


「私も最近、思うことがあってね。

 ちょっとツンツンした危うい感じのイケメンってのも、悪くないんじゃないかって。

 勿論、根が真面目でイイ奴に限るけど」

「あ!

 恵梨もやっと、影のある男の真の魅力が分かるようになってきたんだね!」



 実際、今の世間でどんなキャラが大人気かというと。

 真面目で仲間想いのイイ奴だけど、重い過去や運命を背負っている為どこかに影がある、というキャラが主流だ。ちょうど、私と愛梨の好みを合わせたような。

 おかげで今の時代になって、ようやく愛梨と私の推しは一致し、推しの話題に花を咲かせることが出来るようになった。生まれて初めて。

 ついでにこのトシになって、私はやっと推しグッズに恵まれるようになった。

 真面目で素直で真っすぐなキャラが、報われる時代が来たということか。



 そんな私たちの横では、互いの子供がホットケーキをぱくつきながら、漫画にも食らいついている。

 二人とも男の子で、二人とも小学校に上がったばかりだ。

 大人にも子供にも最近大人気の漫画、『鬼殺しの剣』に夢中。

 さっきからその話題で、二人で言い争っている。


「オレは断然クマスケ推しだぜ!

 あのクマ頭、滅茶苦茶カッコイイじゃねぇか!!」

「ボ、ボクは……普通に主人公の墨四郎が好きだなぁ。

 ジョーシキもあるし、仲間想いだし、毎回修行も一生懸命やってるし」

「でもまだまだ弱いじゃねぇか!

 クマスケなんか、寝たまま一人で魔獣どもを倒しちまったんだぞ!?」

「そ、それって、クマスケは寝た時しかホンキ出せないせいだろ!?」


 可愛らしく口論する子供たちを眺めながら、私たちも二人してため息をついた。

 やはり、血は争えないのか。


 それでも子供たちには何故か、幼少の私たちと違い、ただ一つ意見が一致する点があって――



「でもさ。

 やっぱりヒロインのタマキちゃん、可愛いよな!

 あのおっぱいがたまらんぜ!」

「うん、ボクも!

 おっぱいもいいけど、太ももがサイコーだよね!!」



 それを聞いて、私も愛梨もさらに深々とため息をついた。

 この意見の一致は単に彼らが男子ゆえなのか、それとも世代を経て人が進化し分かり合えることの証なのか――

 それは分からないが、愛梨も私もほぼ同時に子供を叱りつけていた。


「「いつもいつもいい加減にしなさい! 

 あんた達まだ小学生でしょ!!」」



 Fin

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自分を騙して人気キャラを推しましたが、やっぱり好みの眼鏡君を推したい!!~推しの人気がないので幼馴染が煽ってくるわ忠告してくるわ爆笑されるわで大変です~ kayako @kayako001

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