第4話 逍遙遊 4

惠子謂莊子曰:「魏王貽我大瓠之種,我樹之成而實五石,以盛水漿,其堅不能自舉也。剖之以為瓢,則瓠落無所容。非不呺然大也,吾為其無用而掊之。」

莊子曰:「夫子固拙於用大矣。宋人有善為不龜手之藥者,世世以洴澼絖為事。客聞之,請買其方百金。聚族而謀曰:『我世世為洴澼絖,不過數金;今一朝而鬻技百金,請與之。』客得之,以說吳王。越有難,吳王使之將。冬與越人水戰,大敗越人,裂地而封之。能不龜手,一也;或以封,或不免於洴澼絖,則所用之異也。今子有五石之瓠,何不慮以為大樽而浮乎江湖,而憂其瓠落無所容?則夫子猶有蓬之心也夫!」


 恵施。いわゆる「名家」で、今からすれば屁理屈としか思えないようなことを大真面目に論じる(有名なのは公孫竜の「馬と白とは別の概念、故に白馬は馬ではない」とか)ひとびと。そしてこの荘子ではいろんなところで荘子に凹まされまくってるかわいそうな人。魏で宰相にまで至ったすげえ方なんですがね……実はこの人を主人公にしたお話が途中で止まってるんですよ。いつか改めて取り組んでみたいものです。

 さておき、ここでは恵施「魏王からどでかい実のなるヒサゴの種をもらって、植えてみたところ本当にどでかい。けど食器として使うにはデカすぎるので、結局ぶち壊してしまった」と語る。

 それをせせら笑う荘子。この人本当に性格悪いな。結論から言うと、お前それ船にするとか考えつかなかったの? なんで普段のヒサゴの使い方にばっかり囚われてんの? ってなもんだ。

 持ち出したたとえは、わた編みのために水仕事の多い宋の職人があかぎれ防止の薬を当たり前に使っていたのだが、ある軍略家が結構な大金でその薬を買いたい、と言いだした。目先の中途半端な大金にわた編みたちは大喜びだったけど、軍略家はそれをクリークの多い土地=呉に持ち込み、冬場の水仕事対策に用いるよう進言。この結果真冬の越に水軍で乗り込み大破することが叶い、軍略家は重く取り立てられた、と言う話。片や小金を得るもわた編みのまま、片やワンアイディアで大臣に。はてさてこれはどうしたもんでしょうね、とするわけだ。

 逍遙遊とは、やっぱり原則「天下皆知美之為美,斯惡已。皆知善之為善,斯不善已

。」について手を変え品を変え説明している感がありますね。



惠子謂莊子曰:「吾有大樹,人謂之樗。其大本擁腫而不中繩墨,其小枝卷曲而不中規矩,立之塗,匠者不顧。今子之言,大而無用,衆所同去也。」

莊子曰:「子獨不見狸狌乎?卑身而伏,以候敖者;東西跳梁,不辟高下;中於機辟,死於罔罟。今夫斄牛,其大若垂天之雲。此能為大矣,而不能執鼠。今子有大樹,患其無用,何不樹之於無何有之鄉,廣莫之野?彷徨乎無為其側,逍遙乎寢臥其下。不夭斤斧,物無害者,無所可用,安所困苦哉?」


 再び恵施と荘子。この編の流れからすると大ヒサゴについて凹まされたからリベンジ、という感じですね。うちの庭に曲がりくねった大木があって、どうにも使いようがないんですよ、大きいものには使い道があるというのなら、この木についてはどう説明するんです? ときた。おとなげねえ。

 荘子は答える。「は? 使い道がない? 最高じゃん、いいからその大木の根元で昼寝でもしてなさいよ」。挙げる例えは「ヤマネコは俊敏だがやがて捕まって殺される、あの大牛は鈍重で何の仕事にも役立たないから放置されてる、さてどっちがいいのか?」というもの。

 これ、今思うと桓温の荊州の大牛

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054884943490

 の出典だよねたぶん。「そんな大牛喰っちゃえばいいじゃん」と、約千年の時を経て荘子の投げかけを論破した男、曹操! キャーソソサマカッコイー

 そしてこのエピソードについては、やっぱり老子にも同じような考え方が見えていますね。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054888553851/episodes/1177354054890154100

「曲則全,枉則直。窪則盈,弊則新。少則得,多則惑。」


ほんに老子ってこういうひねくれた言い回し好きだけど、荘子も負けてない。

 大小の視点、それはそれとして重要なんだけど、そんなんいいから屁ぇこいて寝ろでちゃぶ台返ししちゃう。しかもそういうのを逍遙遊の最後にもってくるわけだ。うーんこのひねくれた論の進め方ときたら。

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