第3話-3
数日後、勤務終わりに和眞は夜崎の屋敷を訪れた。
雪路が今日、円華の屋敷を調べに行くと聞いていたからだ。本当は自分も一緒に行きたがったが、警官を連れていけるわけないだろうと雪路に拒否された。乗りかかった船で、和眞は気になってしょうがなく、待てずに屋敷まで来てしまった。
玄関までくれば雪路の式神である美鈴が、笑顔で迎え入れてくれる。勝手知ったる屋敷の中を歩き、雪路の部屋まで来て「俺だ、入るぞー」と襖を開けた。
部屋には、淡いレモン色のワンピースの美少女がいた。
「なっ!? 失礼いたしました!」
艶やかな肩まである黒髪と、色白のビスクドールのような肌に大きな瞳。この世の思えない儚げ美しさを纏った少女はどこか見覚えのある面影をしている。
よく見れば、雪路であった。
「なんだ、雪路じゃないか。……ってなんて恰好をしている!?」
そういう趣味があったのか? と問うと、虫でも見るような冷たい目線を向けられた。
「なにを一人で騒いでいるんだ」
雪路は髪をひっぱり、黒髪のかつらを取って二、三度頭を振った。
「もう話を聞きに来たのか? せっかちなやつめ」
大胆にも脇側にあるワンピースのホックを下ろし始めた。和眞は雪路と分かっていても、何故か見てはいけない気持ちになって後ろを向いた。
もういいぞ、と声をかけられ、振り向くとそこにはいつもの黒い和服を来て文机の前に座る雪路の姿があった。ほっとして、美鈴が出してくれた座布団に和眞も腰かける。
「しかし、何故あんな恰好を? 似合ってはいたが」
「君ね。僕は今日、円華嬢の屋敷に調査に行ってきたんだぞ? 年頃の令嬢の家に若い男がおいそれと入れてもらえるわけないだろう。だから変装して円華嬢のお友達としてお家に遊びに行ってきたわけだ」
もう少し考えてから喋るくせを付けないと、ますます阿呆になるよ? と雪路は呆れたように言う。いや、だからって変装してお嬢さんになりきれる人間は、なかなかいないと思うのだが。
「それで、どうだったんだ? 洋館には何かあったか?」
「あるにはあったが、あまり長居はできなかったな」
雪路は駅前で円華と待ち合わせ、彼女の屋敷にいくことにした。円華は、雪路の恰好を見るなり感激して褒めちぎってきた。
「素敵だわ! 可愛らしいお嬢様にしか見えません!」
引っ越す前が、友達が家に遊びに来たことは何度もあるので良い策だという。
さっそく屋敷に向かった。白を基調としたモダンな洋館は、外観からはとくに異変は感じない。しかし、建物の中に足を踏み入れると、雪路の肌をピリピリとした痛みが刺した。
(なにかある……)
父や叔父は仕事でまだ仕事で帰ってきていないとのことだ。なるべく屋敷内を捜索したい、そう円華に耳打ちした。出迎えてきた使用人たちに、円華はお茶とお菓子の準備をするように言う。使用人たちがキッチンに消えた後、二人はそそくさと屋敷の中を回った。
個人の部屋には鍵がかかっているので入れない。雪路たちは応接室、食堂、サンルームと順々に見ていく。
中庭に出たところ、円華の祖母を鉢合わせた。祖母は雪路を見るなり、ぎらりと睨みつけてきた。
「はて、どこのお譲さんかしら?」
「おっ、おばあ様。私のお友達の雪……子さんよ。遊びにきてくださったの」
慌てて紹介してくれた円華に合わせて、雪路は微笑んで挨拶する。
「雪子です。お邪魔しています」
しかし、祖母はにこりともしない。
「勝手にひと様の家に入り込むなんて、無礼な子ですわね。一体どこのおうちの方?」
「ちがうわ! 私がお招きしたのよ!」
「円華さん、私は何も聞いていませんでしたよ。勝手なことをしてはいけません。貴方は早くお帰りなさい」
円華の必死の言葉を無視して、ぴしゃりと言い放つ。祖母はすぐさま使用人を呼び、雪路を玄関まで見送るようにと伝えた。
屋敷の大奥様にあたる祖母に言われ、使用人は言われたことをすぐに行動に移す。円華もそれ以上なにも言えずにうなだれる。
悲しそうに小声で、
「雪路さま、ごめんなさい。前はおばあさまだってお友達を嬉しそうに出迎えてくださったのに」
と言ってきた。
「わかっています。ひとまず今日は帰ります。お手紙を差し上げますから、またどこかで談しましょう」
雪路も小声で円華の耳元に囁いた。お嬢様は潤んだ目で何度もうなずいた。
嫌われ者の呪術師 @suzumushi88
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