Ⅶ:魔勇者覚醒Ⅲ〜force inputs DARKNESS 〜

七機の天使が身体を崩し、終いに弾けた。

飛び散った青い体液が大地を濡らす。

その大地に映る七人の影。

そう、この七人こそ天使を退けた者達───────魔勇者ブラック・ブレイヴ


「何だこれ……すげえ…!」


カツキが震える声で感嘆する。

カツキだけではない、そこに佇む少年少女はこの現象に戸惑いを隠せない。

非現実的に現れた化け物を圧倒する力と共に

武器と黒を基調とした衣装を身に纏っていた。


「まだ……来るわよ」


ミヤコが冷静に警告する。

彼女の手にした武器は、左肩から手の甲まで覆う程の黒鉄の装甲。

手の甲からはジェット機の翼のような突起物が肩幅程に広がっていた。


先程は巨人をそれで射抜いていたようにも見えた。

だとしたら、彼女のソレは。


「どこから来るんだ?」


どこか表情が大人しくなったようなシンジロウ。

赤き炎が、青き焔になったとも言えよう。

彼にも漆黒の装具がある。元々たくましく仕上がっていた両手に、

添えられたように装着された籠手ガントレット。


「………そこ!」


素早く身構えたミヤコは装甲を纏う左手で空を穿つ。

神速で放たれた一筋の黒い光が、怪物の残響を轟かせる。


この場所から僅かにしか見えていなかった

天使を一機、堕とした。


「あの距離で射抜いたのか…」

「……どうやら、これがワタシの力みたいね」


太刀、籠手、ナイフ、ボウガン。

まるでバラバラだ。

魔勇者と言うが、この組み合わせでパーティを組むのなら全く

連携の取れない最悪なコンビネーションとなるだろう。


「サスケ……大丈夫か、それ?」

「…………!」


カツキが心配そうに声をかけた。

相手は黒と紅の配色の体毛の獣だった。

いや、彼は杉冨佐助である。

これが彼が望んだ魔勇者の姿なのか。

顔は仮面で隠されているが、よく見るとヒトの形はしていた。


まだ、武器を見せていないのはカツキとユリか。


「カツキの武器は?無いようだが」

「よくぞ聞いてくれた同志よ」

「同志……?」


カツキはどこか自慢げだった。

タクマと同じとは言わないが、こんな状況で愉快でいられるとは、

俺の思考では考えられない。


「魔勇者になる事で得られる事。それは力だけじゃ無く、

魔勇者という特性の情報───知識もだ!だから俺は、天才的な能力を創造したよ」


創造。

これは精神世界でも一度耳にしたワードだ。

言われなくても分かる。

想像し創造する事が魔勇者の力となり、武器となる。


カツキの言っている通り魔勇者になることによって得られたのは力だけでは無い。

どう言うことなのかは分からないが、魔勇者に覚醒して以降、この世界で

見た物全てを理解出来るようになっていた。


初めから自分がこの世界の住人だったと錯覚してしまう程に。

この世界に関する知識の認識インプット

魔勇者の基本能力のひとつらしい。

知らなくても良い情報を強制的に分からされるのは気味が悪い。


現時点で主に認識している事は、さっきから襲って来ている

怪物は天使と呼ばれる分類である事。

そして。


「vooooo!!!」


それらは魔力に惹かれる殺戮の自動人形であると言う事だ。


「ここは蒼炎のシンジロウに任された!」


拳を合わせ、前線へ立つシンジロウ。


「grrrrrr……aaa!!!」

「む、スギトミ!!」


気合十分のシンジロウを横目に、

サスケが四本の手足を使い、狼の如く俊敏に駆け出した。


「gaaa!!!」


強靭なバネ脚で跳ね、襲い掛かる

漆黒獣を剛腕で振り払う天使。

それは、魔勇者の前ではあまりにも遅すぎる。

そして、この漆黒獣は速さの格が違う。


両手の大爪が天使の喉を搔き斬った。

それだけでは留まらず、次はカマイタチの如く天使の全身を切り刻んだ。

肉片も残さない程に、徹底的に。


「狂戦士………いや、狂獣といったところか」

「狂化……」

「俺たちに襲い掛かる気配が無いのを見る限り、常識のある狂獣みたいだな」

「はあ─────!!」


その声は余りの迫力に周囲を震わせた。


「ああ!先輩!」

「熱血男め、いつの間に」


向こうではシンジロウが天使と拳を合わせていた。

ぶつかった瞬間、風圧で周囲の地面が抉れ飛んだ。

拳を離し、距離を取るシンジロウ。


「ふっ……良い肉体だが、この世界に馴染んでしまった俺には敵わないようだな」


腕に巻かれた包帯越しに、筋肉が引き締まる。

天使は足元のシンジロウに目掛けて真っ直ぐに拳を放つ。

シンジロウは逃げない。

寧ろ待っていたかのように、右手の拳を引いていた。


「直伝のカウンターだ!!」


シンジロウの突き出した拳が再び天使の拳と衝突する。

これまで聞いたことの無い爆音と共に二者を中心に波動が迸り、地が抉れる。


「勝ったな…!」


シンジロウは口元をニヤリとさせた。

こんな自信満々な行動、稽古中はやろうとすら

思った事が無いがこれは勝利宣言というやつだ。


天使の腕の節々から体液が噴き出し、砕けた。

砕けた腕を見つつ、足元を崩しひっくり返った。


仰向けになった天使は視線の先に炎の男を見た。


「必殺!≪流星落とし≫───!!」


シンジロウは本物の炎を纏っていた。

それは瞳に写る紅蓮とは異なる。

より熱を増した蒼い炎。


ライダーキックの要領で空から重い踵で天使の腹をめがけて貫いた。

強力な踏み込みはロケット弾が撃ち込まれた瞬間のように爆風を巻き起こした。

蒼い炎が花弁の如く舞い、その中心にシンジロウがいた。


「見たか、フルヤ後輩!俺について来れるか!」

「カッケーっす!エンエンザキ先輩!!ついて行きまっす!!」


どうしてそんなに気楽でいられるのか、さっぱりだ。


「…………すごい」


俺にしか聞こえないくらいの大きさの声。

ゴスロリチックな服装の小柄な少女。


「アマミヤ……ユリだったか」

「…………」


返事は相槌。

俺が話しにくいタイプの人間だ。

会話が止まってしまうとかなり後悔するパターンだ。

何か─────話そう。


「お前も何か手にしたのか?」


物騒な問いかけ────。

少し苦笑いされたが、恥ずかしそうに見せてくれた。


「これ………です」


西洋風な刃物らしきもの。

持ち手のパーツ的にはレイピアかと推測。

鞘に納められてはいるが、妙に禍々しい鍔をしている。


「なるほどな。その服といい、そういうの好きなのか?」

「す……え、いや………あっ、でも……」


聞き方がまずかったのか、

かなり恥ずかしそうな反応をしている。

まあ、なんとなくどんな子なのかは掴めた気がする。


「ユリちゃんに、何吹き込んでいるんですか……?」


身体に似合わぬ巨大なボウガンを背負って、ミヤコは俺を睨みつけた。


「いや、そういうのではないから」

「そう……」


というか、先程の彼女と比べて声のトーン、雰囲気が別人の様に感じる。

これは覚醒に伴う≪変性意識メタモル・プライド≫というやつらしい。

この世界に定義された自分自身の性質に依存するらしいが、基本的には温厚な程に凶暴になる。

ならば、その逆は穏やかになるかと思えばそうでもなく、特に変わる事はない。

認識させられた情報に変性意識の存在意義に関してはノーデータだが、そんなもの無くとも分かる。

性格に依存することなく、戦士とする為だ。

デヴァークテクスの意志が大きく反映されたシステムとも言えよう。


「……気に入らんな」

「何が?」

「この世界がな」

「……そういうお方?」


そういうお方、とはなんだ。

確かに思い返してみれば、彼女の想像している────恐らく、痛いけな人に見えなくもない発言だったか。


「そういうのでは───」

「──嘘、同情するわ。一秒でも早く終わらせま───しょうッ」


俺にボウガンを向けたかと思えば直ぐに矢が放たれた。

背後の天使を射抜いてくれたようだ。


「私はユリちゃんを守るから、前線頼んだわよ」

「……ああ」


魔勇者ユリ。最強の魔勇者の力を得たとは言え、幼い少女。

先輩のミヤコ的には戦わせたくないのだろう。

魔勇者ミヤコはこういう奴らしい。


「さて、相棒!」


カツキがひと暴れしたところから俺の元へ飛んで来た。


「……飛んできた!?」

「そうそう!翼があるとかじゃないんだけど、俺飛べるんだぜ!ほら、これをこうして……アイ●●●ンみたいにさ!こう!」


カツキは掌で編み出した黒く蠢く球体状の光を地に向けて逆噴射し浮遊していた。

爽快なアクロバティックも決めてみせる。


「お前のそれは武器なのか」

「武器……ふふ、武器なんてないさっ!」

「どういう事だ?」

「俺の力……この魔法の力、この奇跡こそ武器なり!名付けて≪獄魔奇跡ミラクルマター ≫!」


彼の興奮は止まらない。

この事態に一番はしゃいでいるのは彼の可能性が出てきた。

これも変性意識の影響なのか。

それとも。


「という事で相棒、向こうで敵が待ってるよ」

「相棒じゃないが……」

「確かに、まだ早いか……なら、友よ」

「もう、何でもいいが……」


とにかく今はこの現状を。


「───打開するしかないな」


ライトは鞘に手を掛けた。


「行こう!」

「……」


走ってみた。


「─────!?」


踏み込みの次の一歩だけで新幹線並みの速度。

長距離の縮地を行ったような感覚。


目の前には巨人こと、天使。


間合いを詰め過ぎた。

だが、問題は無い。

ライトは柔軟に対応する。


「鋼骨雷鳴流……」


伍ノ型。

半径一メートル内にある得物を全身を使って拾い上げ、それを攻撃に転用する。


「── ≪流震流撃≫」


得物────急ブレーキにより宙に放り出された俺の武器──!!


「ッ!!」


魔勇者となり、二度目の抜刀。

柄を握る。

黒鋼の刀身が稲光る。

刀身からは放電する黒い電撃。

鞘に閉じ込めていたものが爆発的に開放される。


ライトは無言でその太刀を振るう。

無言と相反する───表情。

憎悪を込めたように眉間にシワを寄せ、確実に標的を討つ。


爆音を発する踏み込みと同時にその太刀を振り下ろす。

間合いなど気にする事は無い。

状況に型を合わせるだけだ。


天使の野太い断末魔を聞き流し、次なる標的へ急ぐ。


一機、二機、三機と。

太刀で斬り、拳で貫き、脚で抉り殺す。

この身体は疲れを知らない。

何体来ようと、このまま狩り続けられる自信がある。


「映えてるね!ハヤミ!俺も負けられねえ!」


隣にカツキが並ぶ。走る速度に差は無さそうだ。


「結局、その光がお前の武器……力なのか?」

「良くぞ聞いてくれた!改めてお見せしよう!」


最初の落ち着きはどこかへいったのか。小学生のようにはしゃぐ高校生。


カツキは先程と同じく、両手に黒い光を灯す。

この光は魔法エネルギーの集合体。

とてつもない量が圧縮されている為、他人が触れると致命傷を負う程の危険物といえよう。


「俺はこれに自由自在に≪指向性ベクトル≫を加える事が出来る力だ!」


そう言って、片手を向こうの天使へ向けた。そして。


「≪偽獄魔波動砲ハンデ・ヘルグリッドカノン≫」


その黒光は破裂し、向こうの標的に極太のレーザービームが飛ぶ。衝撃だけで辺りの物質を崩壊させている。

そして、速い。まさに光速と言わんばかりに敵を瞬殺した。いや、存在そのものを消しとばした。


「さあ、どんどん行くぞぉ!」


光線が散り、刃が踊り、滅びの炎が降り注ぐ。

こうして魔勇者の侵攻が始まった。


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Brave.Divide.First〜チート×暗黒魔法で聖なる世界へ断罪を〜 みかんす @XBraver

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