Ⅵ:魔勇者覚醒Ⅱ〜first phase〜

*****


「すばらしい・・・」


普段は考えの読めない表情をしているが、この瞬間だけは彼の感情が読めた。


「・・・楽しんでおられるのですか、


魔王デヴァークテクスは水晶の奥に佇む、痣と切り傷でボロボロの彼を見た。


「レイ、見るがいい。彼らが、我ら魔王軍を勝利へと導く最終兵器オルト・ウェボンよ」


長髪の銀髪に魔王譲りの紅眼アルビノ


彼の名は≪レイ・ハルトレイヴァンス≫──────

魔王デヴァークテクスの息子。


「彼らが例の魔勇者ブラック・ブレイヴですか」


百年以上に渡るこの戦争を終わらせる為、禁術を用いた召喚術を発動する計画。

勿論、知っていた。

だが、レイが思っていた以上に衝撃的な光景が水晶には映し出されていた。


聖界軍はヒト以上に、≪天使てんし≫を用いて魔界を制圧する。

天使は聖界の魔力によって生み出される"使徒"である。


ここ数年、奴らはヒトによる支配より魔力を行使した自動化オートマティックに力を入れ始めた。

そうして生み出されたのが天使。

自動人形もしくは破壊天使とも呼称することもある。


水晶には、その≪天使≫の残骸を踏みつけ高笑いしている男が映る。


ヴァーツ古城にて、≪天災級ダイジェスト≫を

二十機率いる聖界軍が襲来したと連絡があった。


天使には魔獣と同じく等級が存在する。≪天災級≫は拠点制圧に特化しており、

魔界のいくつもの街を破壊し続けている高さ二十メートルのを持つ

最強格の天使───の筈だった。


赤い二つ眼に全身真っ白の巨人。

水晶に映っている魔勇者の男はその手に握った小さな得物で

既に二機の天災級を葬っていた。


「この戦争も、もうじき終わる」


魔王が水晶に向けて呟く。

果たしてどんな表情だったのか、水晶の先の魔王へ視線を向けた。


「レイ、貴様も役に立ちたいのなら次にやることは分かっているな」


次の瞬間には視線がレイの方へ向いていた。

その視線は冷たく、軽蔑しているのがよく分かった。


「はい」

「興が乗った。次は≪ドロトゥカラズ≫だ」


≪暴血湿地帯ドロトゥカラズ≫────魔界の危険区域のひとつ。

本来は小さな村であったが、今は暴走した凶暴な吸血獣により支配されている。

そう、魔王の支配下に無い無法地帯も同然の区域。


「・・・休息は」

「───無い。往け」


巨大な指を軽快に鳴らし、レイを視界から

そして、再び視線は水晶へ。


「さて、もっと見せてもらおう。異界のモノよ」


*****


つい先程まで隣にいた狂人は、悪魔へと覚醒した。


 その黒いコートはどこから出てきたのか。

 その顔の紋章はいつ現れたのか。

 その圧倒的な力はまるで─────。


「そうさ・・・手に入れたんだ。これが俺の力だァ!!!」


瀧は手に握ったバタフライナイフを器用に回転させ、踏みつけた天使を滅多刺す。

切り口から噴き出す青い体液、刺す毎に量が増していた。

その液は、濡らした瀧を更に興奮させた。


見ていられなかったのか、背後の辰巳たつみやが目をそらしていた。

当たり前だ。この怪物、妙な事にヒトに似た臓器は持っている。

普通は見ていられないだろう。


「ああん?」


瀧は何かを察して、首を傾げた。

足元が徐々に沈んでいたからだ。

瀧が踏みつけていた天使は微光を放ち、溶け始めていた。


「消滅した・・・」


眼鏡の位置を微調整し、驚いている杉富の隣で

興味深そうに消滅跡を見る古谷。


「まるでゲームだな」


この状況で冷静に分析していた古谷。

ポーカーフェイスなのか本当に怖くないのか。

そういう感情すら持ち込めない状況ではあるが。


「アァ~最っ高だなこりゃ?まるで夢見てえだ」


まだ冷めぬ興奮に感動する瀧。

これではどちらが化け物なのか区別がつかない。


奴の殺意を表すように纏う黒い霧、振るった短いナイフから放たれた赤い閃光。

そして、あの化け物を瞬殺する程の圧倒的な力。

それらは現実では有り得ない現象であった。


そう、この世界では有り得ない現象が常識。

俺がこの世界に来た時からそうだ。


この目の前の出来事は数時間前に化け物をこの手で殺した時と同じだ。


「─────ッ」


溢れ出る力と黒い刀、満ちた黒いスパーク。

あの時、身に起こっていた事がふと脳裏に過ぎる。


「早見!身体から電気が!」

「え?」


古谷の一言で自分の腕を思わず見た。

これはあの時と同じ現象。

魔勇者の力の予兆。


「それ!どうやるんだ?」

「どうって・・・・」


古谷の問いには答えられない。

自分でさえ理解できない事態だからだ。

初めて力を使った時と同じ焦げたような香り、そして高鳴る鼓動。

自身に何が起こるのか分からず、緊迫する。


「へえ・・・てめえも使えんのか─────ん?」


瀧の背後、廃墟に立ち込める煙からの地響き。

また、奴が来る。

人型のガラス細工の中を白い煙が閉じ込められているような───

そんな気配が近づいてくるのが分かった。

何故、分かった。


「また来る・・・」

「百合ちゃんは私の後ろに」

「はい・・・」


年下の天宮を背後に回す辰巳。


「何々?怖いのてめえら?俺がいるってのによ!」

「瀧!!来てるぞ!!!」


真っ先に声を張ったのは炎々崎だった。

瀧は敵が来ているのに背を向けていたのである。

赤い眼を光らせ、煙を払って天使は再度降臨した。


「voooooo!!!」


先程と同じく、その巨大な拳を背を向けている瀧に向かって振り下ろした。


「────散れぇい!!!!」


その拳は届くことはなかった。

赤い閃光がナイフの軌道に乗って巨大な手を斬り落とした。


「ハァ!!!」


続けて瀧は斬り落とした手を投げやりなフォームで蹴り飛ばす。

その巨大な手は超速できりもみしながら天使の顔面へ向かう。

そして、守る間もなくその頭を


噴き出す噴水。

周辺が青い体液で塗りつぶされた。


「これでェ─────エァ!!」


瀧は地を大きく踏み、映像で聴いた

ジェットエンジンの爆音を鳴らし跳躍した。


「なんという脚力だ!!」


炎々崎が驚くのも無理はない。

生身の人間が、弾いた輪ゴムのように宙へ飛んだのだ。


瀧はその手に握ったナイフでとどめを刺すつもりらしい。

雷斗は、とあるものを目にした。


噴き出した体液が赤色に変色し、瀧のナイフへ集まっている。

次第に刃状へ結晶化し、それは瀧のナイフの一部となった。


「血を・・・武器に・・・?」


驚く現象に杉富が眼鏡をとって凝視していた。



一方、俺はその光景を見ている内に身体への異変が加速していた。

苦しくはないが、今にも溢れ出しそうな何かを抑えるので精一杯だった。

だが、何がそれを加速させているのか、なんとなく理解出来てきた。

正に目の前で起きている悪魔の演武、恐らくこれが答えだ。

先程の予感に続き、じわじわと今まで見えていなかったナニカが視えてきていた。

そして、それが何なのかも


 ワカッテ────シマイソウダ。

 アレ───マユウシャノ────テイギ

 ガイネン───リソウ────マブグ───魔武具


誰かが語る。エコーとノイズが混じって上手く聞き取れない。

誰の声・・・・・だ?


「は・・・・」


五秒ほど意識が飛んでいた。

何が起きている。


誰かの声が聞こえた─────いや、誰かが俺の意識を塗りつぶそうとしている。


「誰だ!?」


あの時と違って、デヴァークテクスの声ではない。

では誰だ。

焦るように周囲を見渡してみた。


「何だこれは・・・?」


目に見えるものの色が、白黒になっていた。

そして、時が静止していた。

背後には辰巳と天宮、俺の前には杉富と炎々崎、

そして古谷。


そして、皆の視線の先には宙に浮いてい瀧───魔勇者タキ・タクマ。

血の結晶で刃を精製したナイフ。

それを振り下ろそうとしていた。


 アレヲ────ミロ─────。


また、キコエタ。


 ソウ──────ゾウソウソウソウソウソウソウ。


唾を飲む。息が上がる。

ソレに塗りつぶされそうになる。

恐らく俺はソレが─────コワイ。恐い。怖い。


 ソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウ


 コエガデナイ。

ヤメロトサケビタイ。

 ソレガナニヲイイタイノカ分かラナイ。

ダレダナンダコレハオマエハ。


 ソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウ


 ダレダ。ダレダダレダダレダダレダダレダダレダダレダダレダダレダダレダダレダ。


ソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウソウゾウシロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロミセロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ


俺は、話を聞かない奴と臆病者が大嫌いだ。

オレを飲み込もうトスル───コイつは────俺の嫌いなタイプだ。


「話を聞きやがれ───────────!!!!!!」


話を聞けない●●野郎が俺の脳内を乗っ取るんじゃない。

俺に触れるな、近寄るな、俺を知ろうとするな。

俺は≪鋼骨雷鳴流≫の継承者≪早見 雷斗≫だ。

祖父より譲り受けた鋼の意志は絶対に壊してなるものか。


鋼の意志が爆発したかのようにその声は消え失せたと思えた。


「想像し創造しろ、さすれば鎖は放たれん」


その言葉が聞こえた。

ノイズもなく、はっきりと。


「!?」


咄嗟に反応しようとした時には時は進み始めていた。

魔勇者タクマは赤き刃を手に宙へ舞う。


「真っ二つァ!!!」


その噴水に飛び込むようにそのナイフで縦一文字に斬り抜けた。

タクマが着地すると同時に砂煙と旋風が駆け抜けた。


「ハッハッハハァ!!」


煙の中で高笑いするタクマ。

刃を持ち、愉快犯の如く狂い咲き、ただ笑う。

ここまでくればもう別人のようである。


煙が晴れると、左右に割れている天使が見えた。

それは先程と同じく消滅した。


「・・・・・・」


並んでいた古谷は一歩前で、

一秒も見逃すまいという姿勢で見ていた。


「この世界・・・・やっぱりすげえよな・・・!」


古谷は、目の前の超常現象を見て羨ましがっているようにも見えた。

今にも手を伸ばしてしまいそうな雰囲気はあったが、

彼の右手は左手で抑え込んでいた。


「古谷・・・・!!」

「早見はさ、ゲームや映画みたいに魔法を使って自由に

飛び回ったりしたいとは思わないか?」

「・・・・・」

「あの人みたいに敵を倒すのが楽しいとかじゃなくて、さ。空想の物語のような

 舞台で、実際にこう・・・手足を動かして駆け抜けたい・・・この思いは本物だ」


古谷はジェスチャー交じえつつ、語り始めた。

初めは気さくで、自信のある愉快な人間だと思っていたが、

案外ロマンチックな男のようだ。


「あと俺はゲームが好きでさ、はっきりと目的のあるRPGとか特に大好物なんだ」


ドクンと無意識に俺の心臓が高鳴る。


「俺たちは魔王デヴァークテクスに『世界を救ってくれるか』と頼まれた」


彼の語りが進行するとともに、

俺の心拍数が何かに共振するかのように早くなっている。


そして、もう一つ──────いや、複数の気配がこちらへ来ている。


「正直、巻き込まれたくない事態だとは思う・・・・でも、実はさ」

「・・・ああ」


俺は、次に何が起こるかもう理解出来てしまっていた。

古谷はタクマと俺の身体の異変を見て、

完全に魔勇者の力というものの想像をかきたてられていた。


そして何よりも、魔勇者になりたいという意志が強かった。

魔勇者として覚醒するには、それだけで十分だったのだ。


「vooooooooo!!!!!」


俺たち七人を取り囲むようにして地から突き出して来た七機の天使。


「──────こういうの、嫌いじゃないんだよね」


目の前が一瞬、暗転し古谷が見えなくなった。

そして、次の瞬間には黒いローブを身に着けた少年が映る。


「きっとみんなもそうだ」


七人から放たれた黒い光が天使ごと包み込んだ。


『想像し創造しろ』

『さすれば鎖は放たれん』


『想像』とは謂わば、この世界に存在する≪魔法≫の存在を認識すること。

『創造』とは謂わば、≪魔法≫の存在を自身の意志で表現すること。


『鎖を放つ』────これは力の解放を意味する。


つまり『想像し創造しろ、さすれば鎖は放たれん』とは魔勇者覚醒の儀式トリガー


ヒトは、普段目にしない出来事を目にすると通常の倍ほど脳裏に焼き付く。

魔勇者タクマの常人を超越した動きと、彼を高ぶらせた超常現象を

目にした俺たちは尋常じゃないほどに想像力をかきたてられた。


瀧が魔勇者として覚醒した瞬間から、奴が天使を殺す一部始終を脳裏に

焼き付けてしまったことで魔の鼓動は既に始まっていたということだ。


*****


黒い光に包まれたと思えば、視界が真っ暗になった。

この空気感、さっきの静止した時間と似たような感じだ。


「また会ったな」


思ったそばから、さっき聞いたばかりの声がくっきりと聞こえた。

俺の目の前にソレはいた。


「よう・・・臆病者」


ソレは、俺自身だった。

声も見た目も全く同じのヒトガタ。


するのが早いなお前は。流石にさっきは驚いたぜ?」


何だか偉そうな口調だな。

見た目が自分なだけに気味が悪い。


「さっきの答えを聞いていない。お前は誰だ」


この現実離れした空間にも慣れてきた。

もう何も疑問に持たず、答えだけを求める。

俺は冷静になって、それを問う。


「え?分からんのか?」


ソレは、キョトンとした顔でそう言った。

なんか腹が立つ。


「知っているかと思ったぜ」

「いいから、答えろ」


ソレは答えた。


「俺はな・・・・"この世界に誕生したお前"だ」


この世界に誕生した俺、とは。

誕生したとはどういうことだ。


「この世界にいた場合のお前の・・・人格っていえば伝わるか?」


俺たちはデヴァークテクスによって、この世界へ召喚された。

つまりはこの世界に存在していない筈の存在だったということだ。

そういう事であれば、こいつの説明と辻褄が合う。


「なんとなく理解した・・・が、そんなお前と俺は話している?」


話は分かった。

だが、この空間については何の説明もつかないのだ。

俺以外の誰も存在しない謎の空間。


「・・・ここは、≪ハヤミ ライト≫という概念だけが存在しうる精神空間マインドゥラ。そして、俺には使命がある。

それを果たすだけにお前と対話する万華鏡バイパス

「対話・・・?」

「俺は生憎、行動についてはプログラムされてるもんでね。

 この空間でお前と話すことか、お前が来るのを待つことしか出来ない

 0か1だけの存在なのさ」

「俺を待っていたということか?」

「ご名答。お前には俺の代わりに頑張ってもらわないといけないからな」


自分にやれないことを、ほかの自分にやってもらう為にただ待ち続ける者。

そんな儚い存在が、この世界の俺だというのか。


「神でもない存在が禁術で無理矢理定義したもんだから、仕方ないぜこれは」


恐らく、デヴァークテクスの事を言っている。


「まあ・・・でも、これはなかなか有りな展開だな」

「結局、お前は俺に何をする気なんだ」

「俺という≪この世界のハヤミ ライト≫の概念を引き渡し、この世界に再定義する────それが魔勇者降臨ブラック・ブレイヴ・アドヴェント

「!!」

「魔勇者は疑似概念メタ・メソッド、自我を持った概念ともいえる・・・つまり」


畳みかけるようにソレは説明を始め、段々とこちらへ近づいてきた。

近づく度にソレは背後の黒に溶けていく。


「お前が想うほどに、お前という定義は変化する」


ソレは糸のような黒い煙となり、俺を包み込み。


「!!」


俺の四肢を縛る鎖となった。

鎖は地をアンカーにし、俺の身動きをとれなくした。


『さあ、ライト。鎖を放ち、その怒りを力と変えろ』


俺の声が、響く。


『汝は夜の闇 雲を払おうとも月しか応えぬ』


腕に脚に、力が入る。


『怒りは夢幻 鋼の意志にて唯只管に受』


眼がかっぴらく。


『放つは稲妻 刃の如し拳を打つ』


黒鎖を───────砕いた。


*****


黒い光が、灯台のライトのように一周し、七機の天使を薙ぎ払った。

仰け反る天使をそれぞれ追撃するように、七つの黒い閃光が飛び出した。


 天使一機目、横一文字に裂かれ消滅。

 天使二機目、腹に大穴を開けられ消滅。

 天使三機目、上半身から消滅。

 天使四機目、宙を舞い消滅。

 天使五機目、無数の傷を負い消滅。

 天使六機目、首から体液を出して消滅。

 天使七機目、いつのまにか消滅。


魔勇者は感染する。

それが複数人を召喚した狙い。

結局、魔王の思惑通りに進んでしまったが、

今を乗り切るにはこの手段しかない。


 魔勇者ライトは黒い太刀を手に。

 魔勇者カツキは無手。

 魔勇者ミヤコは腕に装甲を。

 魔勇者シンジロウは拳にガントレット。

 魔勇者サスケは大爪の鎧獣となり。

 魔勇者タクマはバタフライナイフを手に。

 魔勇者ユリは黒い刀を腰に据え。


こうして、この世界に彼らは定義された。


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