Ⅴ:魔勇者覚醒〜BLOOD DESIRE〜

「最後はお前だな、優等生」


何言ってんだか。

まあ良い。


「俺は早見雷斗。18歳の高校三年生だ、以上」


この古谷というやつ、やはり

妙に馴れ馴れしく少し苦手だ。

いや、これがリーダーシップある

人間所以のコミュニケーション力ってやつか。

納得するしか無い。


「あの〜質問良いですか?」


眼鏡をかけた童顔の青年が

手を挙げた。

彼の名前は杉冨すぎとみ佐亮さすけ

年齢は16歳。

おそらく、この中では最年少だ。


『何だよ………すぐに返して

くれるんじゃなかったのかよ!?』

と嘆いていたのが彼だ。

最年少だからこそ恐ろしく感じる

ところがあったのだろう。


「知ってるところだったら

面白いなと思って聞きます。

何処の高校に通ってるんですか?」


この眼鏡後輩、

見かけ通り真面目な奴だ。

苦手というわけでは無いが、

身内にいないタイプの

人だからか新鮮だ。


光坂山こうさかやま公立高校だが………」

「何!お前、光坂町出身か!?」


杉冨の背後から張りのある

熱苦しい声が俺の耳へ追撃する。

この男は。


「俺は天早あまや大学の消えぬ炎と呼ばれる男!炎々崎えんえんざき進次郎しんじろうだ!

ご近所同士!仲良くしよう

じゃないか!」

「それはもう聞いた」


固く握られた手を上下に振られる。

最も馴れ馴れしいのは古谷じゃなく

こいつだ。

天早大学───聞いたことはある。

県内の大学では運動部最強と

謳われている名門校だ。

運動部最強と謳われているとは言え、こんなに熱苦しい男がいるとは。

一体どういう選別なんだ魔勇者は。


古谷ふるや 勝生かつき 18歳

杉冨すぎとみ 佐亮さすけ 16歳

炎々崎えんえんざき 進次郎しんじろう 20歳

たき 拓篤たくま 21歳

辰巳たつみや 美也子みやこ 18歳

天宮あまみや 百合ゆり 自称17歳

そして、早見はやみ 雷斗らいと 18歳

以上が、この魔界に召喚された者達──────そして、

この戦場へ足を踏み入れる

者達の名である。


「さて、自己紹介も

終えた事だし、進もうか」


踏み入れた、門の先には城が──────いや、最早それは

城ですらなかった。

よく見かける建物の解体後の

それであった。

だが、未だに消火が終わって

いないのはどうしたものか。


「さぁて、敵は何処だ〜?」


瀧 拓篤─────

奴が自然な流れで先導しているが、

これで良いのだろうか。

奴の言う事を一度遮ろうとした彼女───辰巳はそわそわした表情で

俺達と並んで歩みを進めていた。


「怖いなら待ってても

良かったんじゃないのか?」


思わず声に出ていた。


「こんなところでじっとしてたらそれこそ死ぬ、それはごめんだから」

「……………そうだよな」


早速、気まずい空気を

作ってしまった。

俺は小学生の時の遠足も中学生と

高校生の時の自然教室で一度は

気まずい空気を作ってしまった事の

ある男だ。

やはり下手に話しかけるのは

やめた方が良い。


全て古谷に任せよう。


「なあ」


ほら、早速近寄ってきた。


「早見は一度、敵と戦ったんだよな?」

「…………!」


俺に用があるようだ。

周りの目を気にしつつ、

こっそりと尋ねてきた。

だから声に出さず頷いて反応した。


「そうか。その魔勇者の力ってやつはまた再現出来そうなのか?」

「いや、それは分からない。

あの時は頭に血が昇ってそれどころ

じゃなかった。それより、

何故それを知っている」

「ああ、魔王城あそこに来た時に

最初に見たのは倒れているお前と

黒い刀だったんだ。

見たのはそれだけじゃない、

その刀はしばらくすると─────

消えた」


言われてみれば、あの時に手に

握っていた刀が手元から一切

無くなっている。

それが持ち主の手元から

消えたということは。


「つまり、その刀は例の力の一部って事で間違い無いと確信したって訳だ。だから俺は思った………

一度、やり合ったなと」

「ああ、それで間違いない。

あの刀で化け物を斬った」

「化け物ってどんなだ?」


こいつには俺がここまでに

至った経緯を話しておくか。

俺が説明しようとしたその時だった。


「うお!?」


先行していた瀧の横で建物が

崩れ落ちた。


「何なの………あれ……?」

「……………っ!!」


辰巳が無意識に

小柄である天宮を庇う。

その視線の先、そこには

間違い無く化け物がいた。


「早見…………お前が斬った

化け物ってのはこんなやつか?」

「いや、違う………」


俺が斬ったのはヒトガタかつヒトナミの大きさの化け物だ。

間違い無く、そうだった。

これから俺たちが戦うことになる敵もあんな奴等だろうと思っていた。

だが、なんだこれは。


「俺が斬ったのはこんな

じゃない…………!!」


真っ白い身体に人間の身長の

倍以上の高さ。

そして、真っ赤な二つ目。

それに口が無い。

こいつも間違い無く

ヒトガタではあるが、大きさが尋常

ではない。

一軒家サイズの人間が俺たちを

見下ろしている。


「すげえなあ!!マジでファンタジーじゃねえか!!」

「楽しんでいるところ申し訳無いけど………瀧さん、これたぶんやばい感じですよ?」


少し苦笑いで古谷は瀧へ

注意喚起する。


「最初から今までずっとやかましいんだよてめぇは………」

「いくら魔勇者になったからって

まだ使い方も分からないんですよ?」

「使い方?そんなのやってみれば─────分かるだろォ!!!」

「なっ!」


白い化け物はゆっくりと巨大な拳を

振り下ろしてきた。

それにカウンターを繰り出す様に

瀧は手に握っていたナイフで拳

を振り払った。

瀧の身体よりひと回り大きいその拳を、その巨大な手の指にも満たさない大きさの刃物が通るわけが無い。

そこにいる誰もが絶望し

彼の死を確信した。



少し離れた建物が崩れ落ちた。

俺は思わずその建物の方を

見てしまったが、

驚くべき光景が見えた。


「白い……………手?」


崩れ落ちた建物の上には巨大な白い手───青い液体がどくどくと

垂れている。


「まさか!?」


古谷も気付いた。

続けてそこにいる誰もが理解した。


「チート…………チート………チートっつったら殺戮、強奪、無敵、圧制────欲望ディザイア


瀧はそこにいた。幻覚でも無く、

間違い無く生きてそこに立っている。

ただ、先程までと何か違う。


「荒い…………殺気………!!」


人の気に敏感な俺は真っ先に

感じ取れた。

奴は力を得てしまった。

故に抑えていた

得る喜びを知ってしまった。


「はは……ハハハハハァ!!!!」


荒く、鋭く、冷たい。

嵐の様な風と奴の得物が、

瀧の目の前でもがいている

白い巨人の身体を無限に斬り刻む。

その巨人に刻まれる小さい筈の

斬り傷は瀧が刃を振るう毎に大きく─────青く、蒼く染まっていく。

そのアオは恐らく

この化け物の体液、血液。

苦しみ、足掻く化け物を更に

傷付ける毎にこの男は邪悪に笑み

快感を得る。


「これが力!これが異世界転生!

これが俺!!」


瀧の身体を黒い霧が収束する様に

包み込む。


「これはあの時と同じ……!!」


そう、あの時。

この霧が俺を喰らい、力となった。


瀧が斬り刻む中、

その霧は完全に瀧を覆った。


「ッハァッ!!」


その霧すら、その男は裂いた。

だが、晴れた霧の後、

そこにいたのは先程までの

人間では無い。


「あァ〜楽しい!!どんどんやっちまうぞお前らァ!!」


服装が黒いコートへ変わっていた。

そして、フードを払い見せた顔は

先程までの瀧とは似て異なっていた。


「これが…………魔勇者の力なのか」


古谷が驚くのも無理は無い。

瀧──────彼がたった今、

目の前で規定外の大きさの化け物を

たった一人で殺してみせたからだ。

そして、その巨人の身体を

踏みにじりこちらに見せた顔には

黒い線が刻まれており、

その瞳はルビー色に紅く

輝いていたからだ。


俺たちは知ってしまった────

非現実リアル・ファンタジアを。

そして、今後も知っていく事になる。

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