Ⅳ:魔勇者進行〜DEATH TRAIN〜


兵器────奴はそう言った。

奴は俺たちを利用する為に

招集したと言うことだ。

ただでさえ訳の分からない

現実離れした事が起きている。

これ以上関わらない方が身の為だ。

元の世界に帰れない可能性も

あるのではないか。

情報が余りにも少ない中で

様々な説を考察する。


「聞きたい事はそれだけか?」


デヴァークテクスは口元を

ニンマリとして古谷へ問う。

古谷は肩を落とした。

果たしてそれは失望か絶望か。

あるいは。


「それだけだ、答えてくれてありがとう」


寧ろ、安堵していた。

この余裕の表情に対して流石の

デヴァークテクスも理解が

出来なかったようだ。

古谷は続けて口を開く。


「つまりは契約だろ?こちらにも相応の報酬・・を用意してくれないと」

「君は…………面白いな。良いだろう、何でもくれてやる」

「やる事やったら俺たちを元の世界へ返してほしい……そして、それ以降

絶対に関わらないでくれないか」


彼はかなり肝の座っている男だ。

どんな生き方したらそこまで

冷静で的確な判断が出来るのか。

古谷の今言ったその言葉はここに

呼び出された全員の願いだ。


「てめえ……何言ってやがる」

「何でしょうか、センパイ?」

「異世界に呼び出されたんだぞ!?

何勝手に人の夢ぶっ壊そうと

してんだ…………殺すぞ」


全員の願いではなかった。

いや、彼は数えるべきでは無いか。

こんな自己中で────

自前の刃物を取り出す奴は。


「もうやめてください!!」

「ああ?」


振り絞った声がした。

振り向けばそこには制服姿の

女子が一人。


「あなた一人の意見にみんな

振り回されるのはごめんなんです!

素直に彼の意見に従ったら

どうですか!!」


頑張って声を張っているのが伝わる。

極限の中で踏み出した、勇気を感じる。


「次から次へと……てめえの知り合いか?」

「いや、知らないね。でも

彼女の言う通り、元の世界に

帰りたいと思ってる人間が俺以外

にもいるって事………

分かりました?」


良いから早く黙ってほしいと

言わんばかりの鋭い目で古谷は

彼を睨む。


「分かったらそのナイフ、

早く締まってもらえます?」

「……………ああ、分かった───

よぉ!!」


男は古谷に近付き、その得物を。


「良い加減にしろ」


俺が止めた。


「離せ…………あがあぁ………!!」


手首を捻り潰すつもりで、

骨に喰い込ませる力で、込める。


「へえ、護身術?ありがとう。

殺さない程度にしとけよ?」

「……………」


古谷は何かに感づいたように

俺を見たが、何だったのか。


「喧嘩は済んだか?」


デヴァークテクスは

待ちくたびれていた。


「あんなの喧嘩じゃないさ………

さて、契約成立といこうか」


「そうだな……………では、

一つ頼もう」


人差し指を立てた。

他は感じ取れたか分からないが、

何かが収束───────

錬成されていくのを感じた。


「何をしようとしている?」

「この世界を救ってくれるか?」


デヴァークテクスがその指を

パチンと鳴らした

途端、視界が暗転した。

そして。


「何が…………起きた?」


舞台は魔王城から外へ。

目の前には巨大な門番と

英語の様な文字で書かれた看板。


「≪ヴァーツ古城≫………?」


あれ、何で読めているんだ俺は。


「何だよ………すぐに返してくれるんじゃなかったのかよ!?」


先ほどまでデヴァークテクスの

威圧でなのか、一言も喋って

いなかった男が一人、震える声で

感嘆する。

それを古谷は悔やむ様に

して見ていた。

確かに『やる事やったら』と

言ったからそりゃそうなる。


「………どうする?」

「…………やらされる事が何なのか

聞き出せなかったからどうしようも

無いな、はは」


そこは考えるのやめちゃダメだろ。


「ダッセェなてめぇら!?

見ろよあれ!燃えてんじゃん!!

如何にも戦場みたいなところに

送られたって事は殺せってことだろ!?」


さっきまで掴んでいた手を

気付けば離していた。

切替の早い奴。何なんだこいつは。


「良い加減に………」

「そうかもだ、中へ進もう」

「おい古谷!!」

「そう言えばここに来る前に

デヴァークテクスは言ってただろ……この世界を救ってくれるか、と」


確かにデヴァークテクスは

言っていた。

急ではあったがあれが

今回の取引って事なのか。


「何をしろとは言われなかったが、

少なくともこの魔界の為になる事を

ここでしなきゃならないんだろ」


先頭を行ったあの荒くれ男の

背後を追う様に古谷も歩き出す。

俺は引き止めようと手を伸ばした。

瞬間、古谷はこちらを見た。


「一期一会の出来事かもしれないが、

行く前に自己紹介でもしてもらおうか」

「………ああ、そうだな」


古谷の先導で踏み出したこの一歩。

これが俺たちが初めて手を

取り合う事を決めた日。

この道が俺たちの運命あした

希望となるのか絶望となるのか────あるいは。

俺たちには理解出来ない事であった。


少なくともこの時には。

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