Ⅲ:魔勇者招集〜BLACK PROMISE〜

あの日は鮮明に覚えている。

本物の地獄を見た。


校舎は焼け焦げ。

黒煙が町を包み。

炎が獲物を狩るように───

ヒトを燃やす。


俺たちは必死に逃げていた。

父が負傷しながらも必死に

出してくれた車でこの炎の町を

後にする。

母に抱かれた俺は窓越しに

燃え盛る故郷を見る事しか

出来なかった。

恐くて、とにかく恐くて───

恐怖で仕方なかった。

何の為に家族を守る為に

強くなってきたのかと絶望した。

その絶望故か、あの荒々しく

燃え盛る炎すら別物に見えてきた。

その時初めて、幻覚というものを

味わった。


巨大な剣が燃え盛る町の中心に

突き刺さっていた。

果たしてそれは幻覚で間違い

なかったのか否かは誰も知る由は

無い。


「じいちゃん………!!!」


師匠である祖父は側にいなかった。

本来、祖父がいるべき座席には

一雫の命。

祖父が命を賭してまで救った名も

知らぬ少年──────

いや、名はあったか。祖父が付けた。


『魔よりいづる生命の音…………

名は─────』


祖父は気を失ったこの少年を

祖母に託し、炎の中へ飲み込まれた。

必死に叫んだ。

涙した。

絶望した。


炎が視界から遠ざかっていくたびに

その叫びは、思いは、無駄なものと

知った。

だから何も出来なかった。


そして、師匠が最期に口にした言葉の

意味が未だに理解出来なかった。


『怒りは呪いをもたらす災厄の縛。

故に忘れるな雷斗─────ただ純粋に、強くなれ』


>>


「う……………」


またあの日の夢を見ていたようだ。

最悪な目覚めだ。


「目が覚めたか」


その声に背筋が凍りつく。

現実に引き戻された。

確かデヴァークテクスとかいう奴だ。


「お前、一体何……を?」


人の呼吸を感じた。

未だにボヤける視界。

良く目を凝らし、周囲を見渡す。


「………………」


人が、いる。

歳は俺と同じくらいか。

いや、少し幼い奴もいる。


「で、これは異世界転生しちゃったってことで良いのかな、魔王サマ?」


一人だけ、妙に意気のいい男が

余裕の表情で前へ出る。

剃り損ねの顎髭が良く目立つ。

歳上の可能性があるが、この雰囲気は

どうも大人と呼ぶには違う気がする。


「異世界転生………まあ似たようなことだ。強いていうのならば再構成とも呼べよう」

「再構成?まあいいさ。んで、俺たちに世界を救って欲しいとでも言うのか?」

「そう言う事だ。君たちには我が世界を救う義務を与える。そう─────魔勇者として」


魔勇者──────彼はそう言った。

実に非現実な事が目の前で

起きている。


「なら決まりだな。俺に任せ───」

「おい待て」


勝手に進めようとする彼を止める。

この男もどうかしている。


「あ?」

「あの男は………信じてはいけない」

「誰だお前…………あれか、俺と同じ異世界転生者の一員ってとこか。悪いね、俺はこの事態を楽しもうと考えてる。あのデヴァークテクスってやつが例え外道だろうがもらえればそれで良いんだよ……チカラってやつ?をよ」


この男、この状況を楽しんでいる。

楽しもうとしている。

どういうことだ。

俺と同じで誰かの死を伴って

招集されたんじゃないのか。


「彼のいう通りだ。冷静になろう」


この男と俺の間に割って

入るように彼が来た。

刺々しい茶髪の少年。


「何だ次から次へと…………お前ら

どうせ俺よりガキだろ?

あまり調子乗んなよ?」

「お前………!!」


こいつは何を話しても

納得しないだろう。

経験で分かる。

こういう人間は何人も相手に

してきた。

そして、何人も打ち───。


「アンタも待てって」


彼は俺の顔の前に掌を広げる。


「すまない」

「良いよ。俺だってこう見えて少し

動揺しているんだ」


気さくな男だ。

馴れ馴れしいのが少し気にかかるが、

俺が熱くなってしまいそうだったのは

事実だ。


ここは彼に習おう。


「俺の名前は古谷勝生ふるやかつき。よろしく」

「よ、よろしく……?」


彼はそう名乗った。

奇抜な髪型にしてはまともそうだ。

どうやらこちら側の代表として

動いてくれるようだ。


「デヴァークテクスさん、

貴方に聞きたい事が三つある」

「何かね」

「一つ目、此処はどこだ?」


まるでやり慣れたかのような口調で

彼は問う。


「ここは≪トゥへ=エアルツ≫の魔界。そしてここは我が魔王城≪サタン・エクステム≫」

「魔王…城」


俺の背後で身を潜めている

黒髪の少女が呟く。

こんな幼い少女まで呼び出すとは

何がしたいんだ。


「まあ想定通りか。なら二つ目。

どうやって俺たちをここへ

連れてきた?俺は少なくとも何かに

殺されて目が覚めるとここだった」

「なっ!」

「疑問は後。奴から聞き出すのが先」


古谷に手で黙らされる雷斗。

雷斗が口出すのも無理は無い。

雷斗には二つの命の犠牲が

あったのだから。


「面白いところを突くではないか。君の言う通り、君たちをここに召喚する際、一つの儀式を行った」

「儀式だと?」


俺の横で一人の男が反応する。

この男の着ている制服、

何処かで見たような。


「そう、それは禁断の儀式。

決して触れてはならない

世界の線に触れるという

絶対的禁術─────

異世界召喚魔法。

その名も≪魔勇者召喚ブラック・ブレイヴ・アドベント≫」

「その儀式に必要だったのが

俺たちだった………そういう事ね」


古谷はもういい、

と言いたげに話を進める。


「そのまま続けて最後の質問だ」

「よい」

「俺たちは……………何者だ?」

「…………!!」


彼はそう問いた。

自分自身が何者なのかと。


「はぁ!?馬鹿かお前、

自身が誰かってポエマーかよ!?」


意気の良い男。

名も知らぬその男は笑い転げた。

だが、古谷は冷静だった。

真面目だった。

純粋にただ、

その回答を待っていた。


「…………ふっ」


デヴァークテクスが笑った。

とても邪悪な空気を飲み込んだ

気がした。

危険区域に足を踏み入れたような、

緊張感。


「聞かぬとも分かるものと思った

が。君たちは魔勇者召喚によって召喚された魔勇者」

「俺が聞きたいのはそこじゃない」

「む?」

「───魔勇者が何者だってことだ」


古谷の拳が震えているように見えた。

気付けばデヴァークテクスは俺たちの

目の前にいた。


「≪第二次王界戦争セカンド・アポカリプスデイズ≫の終焉エデンにして最終災凶兵器ウルティム・ウェポン────それが君たちだ」

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