Ⅱ:魔勇者降臨〜Detonate World〜

判決は下された。

圧倒的な力、権力、そして支配を

与えなければこの戦いに終焉は

無いと。

それに応えるための回答を

この世界は知ってしまった。

異界召喚魔法アウトオブディメンション≫ーーー禁術を。

この世界とは隔離された別世界線パラドックスラインを経由し到達した世界にて存在しない事象を発生させ、触れたものをこの世界へいざなう。

つまりは餌と獲物。

いざなわれた者がどんな事情を

持っていてもそれらは全て無視し

この世界の養分となってもらう。

これがこの世界ーーーー

≪トゥへ=エアルツ≫の王の

選択であった。

そして今、その禁術を実行する

刻が訪れようとしていたのである。


術式スキャル環境フィル魔力マナ、全て安定しております」

「よし、デヴァークテクス様へ報告しろ」


黒い修道服に身を包んだ者が数名、

巨大な水晶を取り囲んでいる。

指示を受けた男は水晶の奥へ向かう。

そして、奥に見える黒い壁の前で

足を止め、首部を垂らす。

黒い壁の麓で巨大な人影。


「始めろ」


とデヴァークテクスと呼ばれる

大男が号令をした瞬間。


「待て!これは・・・・規定外数値!?ただちに停止しろ!」


リーダーらしき男が慌てて止めようと部下を動かそうとするが。


「ほう、計り知れない魔力か」

「デヴァークテクス様!!これは世界崩壊へ繋がりかねません!」

「続けろ。初めから壊れている世界に何を今更」


デヴァークテクスは払いのけた。

妖しく点滅を繰り返し振動する

水晶の前に立った。


「ーーーディスキング マフォルト ザウォー」


彼は告げるーーーー禁術詠唱タヴゥを。


「ーーーノーヴァディ ディフォル アズサタンスレイヴ」


それは繋がってはならない。

犯してはいけない。

口にしてはならない。

存在しないはずの世界を誘う詠唱コード


「ーーーオルトウェボン ディザスト デトネイト」


鼓動する世界。

歪む大地。

荒ぶる宇宙。


「ーーーセイヴザ イヴァダム デヴァークテクス」


魔界の頂点に立つ者ーーーー我がの名の下に。


「ーーーブラックブレイヴ・アドベント」


*****


「はあ・・・・はあ・・・」


戦いを終えたライトは亡き屍を

睨みつけていた。

敵を殺しきったというのに

現実は何も変わらない。

目の前に広がる暗い荒野が

ライトを置き去りにする。


「くそ!!!」


思い切り太刀を地に突き刺す。


ここは何処なのだ。

この力は何なのだ。

置かれている状況がさっぱり

分からない。


『──────良い願望だ。宜しい……ならばくれてやる』


俺の呼びかけに応えた者がいたことを思い出す。


「誰かいるのなら、俺をここから出せ!!」


静けさに染まる荒野が、一瞬だけ灰色の世界へと一変した。

次の瞬間、目の前にソイツがいた。


「俺に力とやらを貸したのはお前か?」


ソイツは自分より二倍以上の体格で、人間と呼ぶには程遠い大きさをしていた。

黒いマントを翻し、彼は顔を見せた。


「ーーーそうだ・・・・・我が名はデヴァークテクス」


髭の生えた老人だった。

だが、その耳の大きさと形は

人では無い。エルフのような。


「ようこそ、魔界へ。ワシは歓迎するよ異界の者よ」


魔界。奴はそう言ったのか。

こんな馬鹿な非現実があり得るのか。

呼び出された。だったら尚更、

この場を去りたい。


「俺はこの場所が気に入らない。特にこの香り、嫌な思い出が蘇る」


そう、奴からはあの香りがする。

あの大災害の時に初めて感じた、

暗黒の香。


「もしや貴様、この闇の魔力の香りが分かるのか。そう、ここは滅びの魔力源に満たされている。」


「魔界とかそんなのはどうでもいい、俺を元の場所に戻せ」


ライトは動じず、強気で

デヴァークテクスへ問いただす。

今にも爆発しそうなライトの表情に

対しデヴァークテクスは賢者の如く、

一つも表情を変えない。


「元に、とは」


「俺はこんな所にいる場合じゃないんだよ」


「どうして、そんな必要がある」

「は?」

「ほう、なるほど。親を失ったか」

「!!」

「いや、おかしい。干渉するのは因子セレクターだけの筈」


黒い刃がデヴァークテクスの髭を

掠める。


「お前なのか?」


ギリギリでその太刀を受け止めた

デヴァークテクス。

人差し指で受け止めていた。


「・・・何がだ」

「ばあちゃんを・・・・殺したのはああーーーーー!!!」


ライトの怒りに反応するように

黒い電気が弾ける。

だが、ライトの振るった太刀は

デヴァークテクスの指から1ミリも

動かない。


「これほどの魔力・・・やはり止めないで正解だった」

「何言ってる・・・・」

「だが、制御には及ばずか。落ち着け少年、これは運命だ」

「戯言を・・・・・かますな!!」


太刀から両手を離しーーーーーー

腕をクロスした。


「鋼骨雷鳴流 空式 壱ノ型」


デヴァークテクスの懐に入り込む。

これがこの技が確実に打ち込める

間合い。


「≪旋翼鉄撃せんよくてつげき≫!」


クロスした両の拳を懐に

打ち込む打撃。


打ち込んだ瞬間に爆風が発生した。


「!?」


これも魔法というやつか。

想定外の打撃となった。


しかし、打ち込んだ両拳が動かない。


「ーーー君は、この世界を救ってくれそうだ」


煙が晴れた先に無表情の

老人の顔が見えた。

そして、巨大な拳に掴まれた

自分の拳も。


「がっ・・・・・!!!」


胸の辺りから迸る衝撃を感じた。

その時には遅かった。

追撃を与える間もなくライトは

停止する。

そして、薄れゆく意識の中で

彼の声を聞いた。


「君の親を殺したのは、我らではない」


ライトは意識が途切れる。

視界が堕ちる最後の瞬間まで

その言葉に納得できずにいた。

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