歌声

口羽龍

歌声

 ある深い森の中に、ローラというカナリアがいた。ローラは黄色いカナリア。とても美しい見た目をしている。


 でも、ローラには他のカナリアにはない大きな違いがあった。それは、生まれつき声が出せないことだ。


 そこに、別のカナリアがやって来た。そのカナリアは声が出せる。カナリアは木の実をくわえている。カナリアたちは楽しそうな表情だ。


「ローラ、この木の実が欲しいか?」


 カナリアは木の実を目の前に置いた。カナリアはローラをバカにしているような表情だ。またからかいに来たのか。ローラにはわかっていた。


「欲しいのなら言ってみろ!」


 別のカナリアもバカにしているようだ。ローラは悲しくなった。いつもこうやってバカにしてくる。どうして自分は生まれてきたんだろう。いじめられるために生まれてきたんだろうか?


「なーんだ、いらないのか?」


 カナリアはおいていた木の実を再び口にくわえた。カナリアは嬉しそうな表情だ。今日もローラをからかうことができた。


「まぁいいや。お前は声が出せないんだしな」


 カナリアは飛び去った。ローラは寂しそうにその様子を見ていた。こういう風にからかわれたの、もう何度目だろう。いつになったらこんなことされなくなるんだろう。いや、そんなことはない。一生こうやってからかわれるんだ。自分は本当に生まれてきたよかったんだろうか?


 ローラには夢があった。それは、自分の声で歌うこと。そして、カナリアは美しい歌声で泣く。自分もいつかそんな声が出してみたい。だけど、こんな夢、かなうんだろうか? いや、かなうはずがない。


 ローラは流れ星に願った。声をください。美しい、誰もがうっとりするような音色をください。


 だが、そんな願いはかなうはずがなかった。生まれつき声が出ない。自分は死ぬまで声が出ないんだ。いつまでも孤独なんだ。


 寂しそうに、ローラは木の枝から飛び立った。誰も信じられない。声が出せないから私は一生孤独なんだ。そう思うと、泣けてきた。


 その時、流れ星がこの近くに落ちた。ローラは興味津々にその様子を見ていた。どんな様子だろう。気になってローラは落ちた場所に向かった。


 流れ星の落ちた付近をローラが飛んでいると、白くて美しい鳥がいた。その鳥は他の鳥にいじめられていた。それを見たローラは、そこに降り立ち、いじめていた鳥を追い払った。


 ローラはいじめられている鳥を見つけたら、放っておけない性格だ。だが、声が出せず、自分の気持ちを伝えられず、助けても友達になれなかった。


「あ、ありがとう」


 鳥は飛び去った。だが、ローラは何も言うことができない。声が出ない。だが、鳥は嬉しそうな表情だ。なんて優しい心を持った鳥なんだろう。この鳥には何かごほうびを与えなければ。




 その夜、ローラは夢を見た。目の前には大きな鳥がいる。その鳥は今まで見た中ではるかに大きい。そして自分よりはるかに美しい。もう何年生きているんだろう。


「我が娘を助けたのは、あなたですね?」


 大きな鳥は優しい声をしている。まるで母のようだ。母ではないのに、親しみが生まれる。どうしてだろう。


 声の出ないローラは何も答えることができない。自分が助けたと言いたいのに。


「そう、そうなのですね。ローラなのですね。ありがとうございました」


 だが、大きな鳥にはわかった。その大きな鳥は何か不思議な力を持っているようだ。ローラは首をかしげた。どうして自分の思っていることがわかるんだろう。


「心優しきローラよ、あなたの願いを1つだけかなえてあげましょう」


 だが、ローラには言えない。自分は声が欲しいのに。その声が出ないと、何もかなわない。どうしよう。いつの間にかローラは悩んでいた。


 だが、大きな鳥は笑顔を見せている。まるでローラの願いがわかっているようだ。


「声ですね。わかりました」


 ローラは驚いた。どうしてわかったんだろうか? ひょっとして、この鳥は、神様では?


「心優しきローラよ、あなたに女神の歌声を授けましょう」


 大きな鳥が羽ばたくと、ローラは光に包まれた。ローラは辺りを見渡した。やはりこの鳥は、神様に違いない。自分が助けた鳥は、神の使いに違いない。自分はとんでもない鳥を助けたんだ。


 光が収まると、目の前に神の鳥がいる。神の鳥は嬉しそうな表情だ。神の使いを救ったローラに感謝している。


「あっ!?」


 ローラは驚いた。声が出る。あの光は魔法だろうか? ローラは涙を流した。自分も声が出せる。これで私もみんなと同じカナリアになれる。


「心優しきローラよ、その声は私のような神様が持つ声です。あなたはその美しい歌声を持つにふさわしい。その歌声であらゆる生き物を引き付けるのです」


 ローラは目覚めた。夢だったんだろうか? ひょっとして声が出せないままなのでは? ローラは下を向いた。


 ローラは試しに声を出そうとした。すると、声が出た。ローラは驚いた。あれは夢じゃなくて現実のようだ。


 周りには誰もいない。今日も1人だ。だけど、ひょっとしたら今日からたくさん友達ができるかもしれない。


 ローラは試しに歌った。歌いながら、ローラは驚いた。信じられないほど美しい歌声だ。これが神から授かった歌声なのか?


 すると、他のカナリアは驚いた。ローラが歌っている。しかも何とも言えない美しい歌声だ。


「ローラ、お前、声が出せるのか?」

「なんて美しい歌声だ。ほれぼれしちゃうよ」


 他のカナリアはその歌声に導かれるように近寄ってきた。まるで神様が歌っているようだ。思わずうっとりとしてしまう。


 いつの間にか、ローラの周りにはカナリアをはじめ多くな生きものがやってきて、その歌声に酔いしれていた。


 こうしてローラは多くの友達に囲まれて幸せな日々を送った。

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歌声 口羽龍 @ryo_kuchiba

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