最終話 愚者の選択

 俺が呆けていると、伊織が向かい側に座った。


「岩崎さんとはどういう関係?」

「ただの中学の同級生だよ。もう会う事は無いだろうけどな」

「浮気してたの?」

「浮気じゃない。ただ話してただけだ」

「彼女の存在を隠して? それってやましい事があるから隠してたんじゃないの?」

「チッ、うっせーな」


(クソ! イライラする。なんでコイツは俺の邪魔をするんだ)


「ねぇ、どうして? 私、聖人くんの事本気で好きなんだよ? だからエッチも許したんだから!」

「だからどうしたんだよ? 恋人同士ならセックスして当然だろ! 何を恩着せがましく言ってんだ!」

「ほ、本気で言ってるの?」

「悪いか?」

「っ!」


 伊織は何も言い返さず、涙を流しながら店から出ていった。そんな伊織よりも今は岩崎さんの事を考えてしまう。


(今更だけどクズだな俺は……)



 それから数日、何もやる気が起きなく、ただ毎日をダラダラと過ごしていた。


(はぁ、俺は一体どこで間違ったんだ……)


 そんな事を考えていると、羽海からメッセージが来た。「今から家行くね」とだけ送られたメッセージを眺めて「わかった」とだけ返信した。

 心配掛けまいとなるべくいつもの様に振る舞い、いつもの流れで羽海を抱こうとした時、羽海が心配そうな声で問いかけてきた。


「どうしたの? 全然聖人らしくないよ?」


 いつも通り振る舞ってた筈だけど羽海には見破られていたらしい。そんな羽海だからだろうか、俺は今までの全てを羽海に話した。

 

(きっと羽海も怒って俺から離れて行くんだろうな)


 なんて考えていると、羽海は意外な言葉を発した。


「聖人はこのままでいいの? 岩崎さんの事が好きなんでしょ?」

「怒らないのか?」

「私は元々伊織を裏切っちゃってるから怒る資格はないかな」

「そっか」

「で? 聖人はどうしたいの?」

「俺は……岩崎さんとキチンと付き合いたい」

「だったら行動しないと!」

「……でも、許してくれるかどうか」

「そんなのやってみないと分からないじゃん! 好きならちゃんと伝えないと!」


 そう言われてハッとした。羽海の言う通り、どうせ後悔するならきちんと気持ちを伝えたいと思った。


「羽海、ありがとう。それから俺と別れてくれ」

「分かった。ダメだったらいつでも戻ってきていいからね」

「そうならないように頑張るよ」


 その日の夜、香子にも電話で全て打ち明けた。香子は最初から気づいていたらしく、すんなりと受け入れてくれた。こうして香子との関係も終わらせた。


 翌日の夕方、俺は最寄り駅の前で岩崎さんが現れるのを待っていた。いつも部活でこの時間帯に帰ってくると言っていたのを思い出し、待ち伏せしている。

 駅前を見張ること一時間、駅から岩崎さんが出てきた。俺はすかさず岩崎さんの前に立ちはばかる。


「邪魔なんだけど」

「話がしたい」

「話す事なんてない」

「お願いします! 話を聞いて欲しい!」

「なんで私が坂柳君の話を聞かなきゃならないの?」

「それは……俺が岩崎さんの事が好きだから!」


 俺の突然の告白に驚いた表情をした後、何故か悲しげな表情に変わった。


「本気……なの?」

「ああ、本気で岩崎さんの事が好きだ!」

「……なら、なんで彼女居る事黙ってたの?」

「それは……」


 俺が言い淀んでいると、ハァと岩崎さんが溜息を吐いた後、信じられない言葉が飛び出した。

 

「ほんとバカみたい……こんな人を好きになっちゃうなんて」

「へ?」


(今なんて言った? 好きになっちゃう?)


「私も坂柳君のことが中学の時から好きだったの」

「ほ、ホントに?」

「こんな事になるなら、卒業式の日、勇気だして告白しておけばよかった……」

「それって……」

「今は付き合えないかな」

「そっか……」

「でも――」



 岩崎さんと伊織が楽しそうに話している。

 あの時、岩崎さんが伊織を紹介して欲しいと言った時は驚いた。

 後から理由を聞いたら、「私の所為で別れたなら謝りたかったから。じゃないとキチンと坂柳君と付き合えないと思ったんだ」との事だった。



 俺を話題にして盛り上がる二人を見て想う。もの凄く間違って、もの凄く遠回りをしたけれど――――



 色々間違いを犯してしまった。

 だけど愚かな俺の選択は最後だけは間違っていなかった。

 岩崎さんのお陰で今は心からそう思える。



 こうして愚かな俺の初恋は無事花を咲かせる事が出来た。

 

 

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愚者の初恋 白石マサル @mikan830

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