第四話 友達

殺したいほどに憎い相手。もはや私にはなくなったはずの血が全身で煮えたぎる感覚になる今、私の目の前を大きな羽虫が飛んでいった。


「正義の国の王は、貴様も知っているだろう? 未だ健在であるザラクだ」


ああ、懐かしい名だ。私を殺した男の名だ。


「殺してやるとも」


私は静かにそう告げた。


「貴様にはザラクは殺せん」


老女はそう告げる。


「貴様に友を殺すことはできぬ」


「友などではない、もはや奴は憎むべき仇敵であり、それ以外の何物でもない」


老女はため息を吐いた。


「悲しきことだ。ほんに悲しきことだ。何故歯車がかみ合わない。はるか昔、貴様らは同じ釜の飯を食った仲間だった。貴様らはガキの頃、わしのもとでともに切磋琢磨し、その武を磨いていた三人。一人は死者の国の王になった。一人は正義の国の王になった。そしてもう一人、わしの一人娘のリュウレンは和の国の王女になった。


それはとても誇らしいことだった。長きにわたる5つの大国の戦争に終止符をうつやもしれん。いや、うつであろう。そう信じておった。だが、現実はどうだ? 貴様らは先代達と同じ道を辿り、殺し合いをしている。これほど悲しきことはない」


「師匠……」


私は言葉を飲んだ。久しぶりに会う恩師であるリュガ様の涙は、心に来るものがあった。


「阿保弟子どもめが」


師匠はその手に二つのサイコロを持っていた。とても落ち着いた水色のサイコロだ。


「貴様はザラクを殺すことはできん。断言してやる。それでも行くのか?」


私は頷く。


「そうか。なら連れて行ってほしい者がおる。リンネや、出ておいで」


私と師匠の間に幼い少女が突如として現れた。この地で何度も見た相も変わらずの白衣に赤い袴を合わせた巫女装束の少女だ。そしてその顔には、これまた相も変わらず狐の面をかぶっている。


「なんだこの少女は?」


「わしの孫娘だよ」


「てことはリュウレンの娘か?」


「ああ、そうだよ」


師匠は凛としてそう告げる。


「何故私がこの娘を連れて行かねばならない? 足手まといだろう」


リンネと言うらしい少女は何も喋らない。代わりに師匠が私の問いに対して発言する。


「そう見えるか?」


「そうとしか見えない」


「ふふ、おいリンネ、少しこの骸骨に実力を見せてやりな」


その少女は息を大きく吸い込んだ。そしてとても緊張してはいるが、すばらしく澄んだ声で、


「はい‼‼‼」


と叫んだ。遊んでやろう。私は立ち上がった。リンネという名の少女はその手から透明なとても綺麗な二つのサイコロを地面に落とし、そのサイコロは1と3の計4の目を出した。

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骸骨と黒のサイコロ 人間 計 @neomero

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