死霊術師と吸血姫は休暇を取りたい

 欲


 とある年代。とある国の宗教観で人には7つに分類される罪や欲がある。という教えがある。虚栄 嫉妬 怠惰 憤怒 食欲 色欲 淫蕩 とまあ――このような内容ではあるが、どれをとったとしても人には様々な欲で満ち溢れている。それが人間であり、人間であるが故なのである。


 と、私はおもう。



 サシャ・メディウム・クノッヘン



――――――――――


「リズ、今日の売上を纏めていおいてくれないか」


「畏まりました。マイロード」


 暫く前にハイベルタ市が『追放勇者軍』に街の住人が全追放された件。その後サシャは市の復興手伝いという形でカフェを開店したのだ。『モフモフ耳メイドカフェ一号店』サシャの死霊の中に獣型の亜人女性の元冒険者が数人いる為、そのもの達と運営している。


「終礼を始める。先ず本日の指名獲得数一位『デルタさん』」


――パチパチパチ


「次、アルファさん。次イオタさん。次――」


 この様にサシャは毎日の成績を報告する。

 ちなみに、名前は昔ある国で使われていた略語である。


「最後、デルタさん。最近伸び悩んでいるのかな?」


「イエス・ユアハーネスっ! それが――何人かに「追放だっ」と言われまして」


「そうか……リズ――その者達をリスト化しといてくれ」


「御身のままにっ」


「では、明日も全員頼むぞ」


「「「「はっ! マイマジェスティ!」」」」


 店の従業員(死霊達)全員がかっこよくキリッと敬礼し影に帰って行った。


 サシャは考えている。


 あの追放勇者をほぼ駆逐したものの、勇者に限らず追放病が一般人にも波及している理由を。更に、『モフモフメイドカフェ一号店』では『婚約破棄病』を調べる理由で、身請け婚約制度を作っている。奴隷とは違いメイドを嫁として買い取れるという仕組みだ。勿論、死霊というのは内緒であるが。


「リズ、あの貴族の坊ちゃんはどうなった?」


「もう間もなくかと存じます――」


「そうか……」


 サシャが言う貴族の坊ちゃん。

 先にも挙げた身請け制度で『アルファ』を嫁として買い取りたい。と、前金の中金貨15枚を置いていった令息。その者がそろそろアルファを引取りに来る時間なのだ。


 暫くサシャが客席で待っていると彼は店扉を開け中にやってきた。


「いらっしゃいませご主人様『モフモフ耳メイドカフェ一号店』店長のリズでございます」


 元公爵家ご令嬢が今ではモフモフ店長だ。

 人の運命はなんとも予測不可能である。


「ああ――アルファちゃんの件だが婚約破棄させてもらうよ。金を返してくれ」


「それは困りました。返金は無いと契約書にもサインを頂いております」


「はあ? そんな事はどうでもいい。中金貨15枚だぞ、返して貰わねばならんのだっ!」


 なんとも横暴な令息である。

 が、サシャからしてみれば予想の範囲ではある。

 サシャは令息に警告した。


「お坊ちゃん。これを無碍にするのであれば陛下に逆らうと同じ事になりますよ? ほら――ここに陛下のサインも」


「う、うるさいっ!」


 (はぁ……。バカしかいないのかなこの世界)



 と、サシャが呟くと彼は左目に最近王都で流行りの『カラーコンタクト紫バージョン』を装着した。






「サシャ・メディウム・クノッヘンが命じるっ! 絞り尽くせリリーっ!」






――キュイイイイィィィンンンン






 『モフモフ耳メイドカフェ一号店』に特殊効果音が流れる。


 その効果音を確認したサシャは、右手人差し指と中指の隙間から片目を覗かせリリーに命じた。

 最近のサシャのお気に入りのポーズのようである。




 が、目が光るくらいしか特に意味は無い。





「お兄様っ了解ですー」


 店の控え室から淫魔のリリーが嬉しそうな顔で、控え室扉の隙間からひょいと顔を覗かせた。

 最近のリリーの欲求解消方法。

 聖女姿の獣。いや――淫魔サキュバス。

 契約破棄してきた男性を使い物にならなくなるまでリリーが搾り取るのだ。


 本来は快楽の声や体液の擦れる音がするはずの行為も、リリーの色欲のせいでか店内控え室からは凄まじい阿鼻叫喚を響かせている。


――グギャァァァアッッッ


「はぁ美味しかったっ。いつもありがとうございますお兄様! ゲップッ」


「いいんだ、リリーを放っておくとわたしまで危険に晒されるからね。あと最近モナちゃんに似て下品になってきてないか?」


「いやいやお姉様とだけは一緒にしないでくださいっ。それに――暫く別作品が進んでたせいで個性がわからなくなったのかもっ」


「あぁ、遡 今日子さんシリーズ……」


 そのシリーズが何なのかはさておき。


 こうしてハイベルタの治安は今日も復讐代行事務所の手によって守られたのであった……。


 と、説明すると物語が続かないのだけれど。

 サシャには調べなければいけないことがいくつかある。例えば『スローライフやっほー病』『ダンジョン産器具』や流行病の原因や感染経路など。

 もはや復讐代行事務所というより、なんとかという名前の陛下からの勅命が大多数の『便利な代行事務所』所と成り果てている。


 ※


「サシャ! 大草原だねっ。ぷぷぷ」


「不可避だね。モナちゃん」


「草っ」


「それにしたってスローライフ患者をどうやって説得したらよいものやら――」


 『スローライフやっほー病』(仮)現在、王国で爆発的に増えている病。

 『追放勇者』に追放された『元荷物持ち達』が自堕落な生活をしてしまう病。

 らしい。

 サシャとモナは現地調査を兼ねとある辺境の村に来ている。


 2人が辺りを見渡しているその光景は、柔らかな風が流れ、草木がゆっくりと囁き、その光景を見た誰もが情緒溢れる田舎暮らしに憧れを持ってしまうだろう。


 おそらく大きな樹木の下には洞窟が隠されており、その先へ足を踏み入れれば、大きな、それは大きな毛むくじゃらの妖怪が寝ているのだ。

 と、サシャは考えている。


 そんな大草原を目にしたサシャとモナは、好き放題に感想を言葉にしていた。


 と、そんな中モナが、


「ねぇねぇサシャ」


「どうしたの」


「最近私達さー、小間使いみたいになってる気がするの。いっそこの大草原でのんびりしよう?」


「モナちゃん。それってスローライフやっほー病なんじゃないかな」


「そーかも。旅行も結局行けなかったし。もう――ぷんぷんなんだよ私。その追放された冒険者も罪を犯したわけじゃないじゃない? ね、少し休もうよ♡」


 モナの悪い癖が出始めてしまっている。


「うーん。確かに勇者軍との件から暫く忙しかったしね。あの時話してた魔王国にでも行くのもありなのかもね。でも、勿論リリーも連れてくからね」


「ぶぅ、でも仕方ないかぁ」


「じゃ、早速屋敷に帰るとするか」


 サシャとモナは陛下の頼み事のスローライフやっほー病や追放病等を放棄する様子だ。

 まさかとは思うが流行病に患っていないとよいのだけれど。

 まだまだ流行病が撲滅出来たわけではない。頑張り続けた代行屋の少しの休息なのであろう。

 と、わたしは思う。









 ひとやすみ





――――――――



 短編ボリュームで続けてきました、死霊術師サシャと吸血姫モナのコンビの物語。ここまでご覧になって頂きありがとうございます。


 どうにもこの先の展開が思い付かなく、一旦休ませようと思います。評価や応援頂いていた皆様申し訳ございません。


 今は実際の小説を読んだりしながら物語の作り方の勉強を日々続けております。


 今後とも他の作品含め、応援の程よろしくお願いします。


 最後に、☆や♡のレビュー等で、忌憚のない感想頂けると非常に嬉しく思います。改善点も自身では気が付きにくいものでして……。


 何卒よろしくお願いします。


 祭囃子

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死霊術師と吸血姫は『追放勇者も悪役令嬢も流行病』だと気が付いたから、そいつらで遊んじゃおうと無双する〜『追放・婚約破棄』を撲滅したい復讐代行事務所〜 祭囃子 @matsuribayashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ