第二章 C級ゴブリン・ライオット

第5話 C級

 部屋を出ると気づいたことがある。

 ここはどうやら巨大な大樹の内部であることだ。

 螺旋状の階段が内部には張り巡らされており、数え切れないほどの部屋数がある。

 一体どれほどのゴブリンがここで生活しているのだろうか。

 魔王軍との大戦にて、ゴブリンは魔王の敗北を悟ると、一目散に退散した。

 魔王軍で唯一退散した部隊であった。

 それにしても多すぎる。

 ゴブリン狩りは最早、街のギルドでは冒険者見習いが腕試しに受ける依頼クエストの一つだ。

 どこもかしこも緑色のモンスター達が蠢いている。

 その中の一人が自分なのだから、未だに頭の整理が追いつかない。

「ゴブリンロード様は一体何の話をされるおつもりだろう?急な集会なんて滅多にあるもんじゃないぞ」

「そ、そうだな。魔王の敵討ちに行くぞーみたいな話なんじゃないか?」

「ないない。ゴブリン部隊はあの大戦で唯一逃げ出した部隊だぞ?の話だが。そういえばライオネル、お前あの大戦の時、見なかったけど、、」

 まずい、自分が勇者当人だなんて口が裂けても言えないし。

「茂みの中に隠れただろ!俺もそうしとけばよかった。あの勇者は化け物だよ。化け物」

 化け物はお前たちだろ、とツッコミたかったが、確かに前世の俺は暴れすぎていた節がある。

 否定はできない。

「そうそう、隠れてたの。怖かったから」

 気がつけば、広場に着いていた。

 改めて見ると、ゴブリンはゴブリンでも個体差や魔力量など様々な違いがある。

「級ごとに列で並べ!」

 いかにも司令塔らしきゴブリンが整列の指示をしている。

 それにしても級とは何か?

 ゴブリンの中でも階級が決まっているのか?

「行こうぜ、アル。俺らC級は一番端の列だぜ」

 C級だと?

「すまん、アル。C級って上から何番目だっけ?」

「上から何番目とかじゃない、下から一番目だ」

 下から一番目。

 つまりはゴブリンの中でも最下層のクラスということか。

 魔族の中でも最下層クラスに位置する魔族なのに、その中でも最低ランクとは。

 確かに、周りを見渡すと魔力量が乏しすぎる。

 おそらく、英雄剣トラストコードの一振りで生じる風圧のみでダウンしてしまうほど弱いだろう。

 仕方なく列に並ぶことにした。

「並べ並べ、お前らC級はゴミ同然なんだ」

 地面が揺れるような足音と共に誰かが近づいてきた。

「ジャグラスだ。無視しろ。絡まれたら殺されるぞ」

 ジャグラスはそのまま俺の横を通った。

 サイズはかなり大きい。

 今の俺のサイズの5倍はあるだろう。

 それにしても凄い悪臭だ。

 思わず、声が漏れた。

「クセェ」

 あたりが静まり返ったのが分かった。

「お前、名は?」

「ライオ、、」

 先程アルから教えてもらった名前を言い終える前にジャグラスの太くてゴツゴツしている人差し指が俺の口を閉ざした。

「やっぱり言う必要はない。どうせ死ぬんだから」

 次の瞬間にはライオットの腹をジャグラスの持つ棍棒が抉り、軽々と宙に突き上げた。

 数秒の間と共に、ライオットが落ちた衝撃音が広場に響いた。

「見せしめに丁度いい。いい朝の運動になった。あとで片付けておけ。死体がいつまでも転がってちゃ敵わん」

 そう言い残し、ジャグラスはC級の列の一番先頭に立った。


 危なかった。

 そして気づいたことがある。

 ゴブリン・ライオットは勇者ライオネル・ブラッドの魔力量と魔法スキルを継承している。

 現に今"超基本魔法:身体活性ライズ"を無詠唱で発動できた。

 身体へのダメージはゼロだ。

 しかし、流石にゴブリンの体は勇者の時の耐久性を受け継いでいなかった。

 魔法をかけなければ、腹は抉れて、跡形もなくなっていただろう。

 どうやらタナトスティアはただの使えない神ではなかったらしい。

 予定と少し変更があったが、これでも復讐ができるはずだ。

 ゆっくりと起き上がり、列の一番後方に並んだ。

 誰にもバレないようにこっそりと!

 起きたのと同時に、ゴブリンロードが壇上に姿を表した。

 一瞬でゴブリンロードだと分かったのは、王冠を被っていることと、魔力量、服装からだ。

 やはり魔力量は他のゴブリンと比べると、桁違いだ。

 明らかに歳をとっているため、戦闘能力は低いが、魔法を操るタイプのゴブリンだろう。

「我はゴブリンロード、魔王軍幹部ゲルン・ハートである。一週間前にあった魔王軍と勇者との大戦にて我々は魔王を失った。つまり次の魔王が必要となる。魔王候補は先日の幹部会議にて幹部の中から決めることに決定した。」

 次の魔王を決める?

 どうやらいくら魔王を倒しても次々に現れるらしい。

 やはり勇者なんぞ早くに止めるべきだった。

「したがって我々は一ヶ月後を行う。これが成功すれば、我ゲルン・ハートは魔王になる十分な材料を獲得し、またゴブリン部隊も地位が今よりも格段に上がるだろう」

 王都襲撃か。

 無茶苦茶だな。

 そもそもゴブリンの部隊だけで王都を陥落させることなんてできるわけがない。

 王都の警備態勢や戦力は全て熟知している俺から言わせれば成功の確率はないに等しい。

「一ヶ月後までに各自、戦闘準備に取り掛かるように」

 と言い残し、ゴブリンロード、ゲルン・ハートは壇上からゆっくりと降りた。

 ゴブリンたちは唯固唾を飲んで立っていることで精一杯だった。

 














 

 





















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最下層ゴブリンの国落とし 鈴木背徳観 @haitokun

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